商標権の侵害が生じた際に訴訟まで事案が発展した場合には裁判所で審理が行われます。
裁判所では商標権侵害の事件について、「侵害論」と「損害論」の大きく二つに分けて審理を行います。
最初に実際に商標権の侵害があったのかどうかという点が争われます。これが「侵害論」です。
侵害についての審理の結果、商標権を侵害した事実はなかった、と認定された場合にはそこで裁判は終了になります。
これに対し、侵害についての審理の結果、商標権を侵害した事実が認められる、と認定された場合には、次の「損害論」に進むことになります。
裁判所における「損害論」では、実際にどの程度の損害があったのかが検討されます。
損害に相当する金額を認定する作業を行い、その結果として導き出された額が損害賠償請求における請求額として認定されます。
ところで特許権や実用新案権の場合は発明や考案そのものに価値があります。発明や考案は目には見えませんが、財産的価値があるものとして扱われます。
これに対して商標権の場合は、商標そのものに価値があるのではなく、商標と一体化した信用に価値があると考えられています。
例えば、コカ・コーラの瓶に「コカ・コーラ」の商標が表示されているとします。
この瓶を手を滑らせて床に落とした場合のことを想像してみて下さい。
「コカ・コーラ」の商標が表示されている瓶は粉々に砕け散りました。
しかし、「コカ・コーラ」の商標権の価値は全く影響を受けません。
なぜなら、「コカ・コーラ」の商標権の価値は、「コカ・コーラ」と表示された商標そのものにあるのではなく、「コカ・コーラ」という商標を通して認識できる「コカ・コーラ」の信用そのものにあるからです。
目に見える「コカ・コーラ」の商標に価値があるのではなくて、その商標の向こう側にある目に見えない「コカ・コーラ」という商標と一体になった信用に価値がある、というわけです。
商標そのものに価値はなく、商標に一体化した信用に価値がある、というのなら法律上守るべき価値のない商標についてはたとえ侵害を受けたとしても、そもそも損害は発生しないのではないか、という考え方も成り立ちます。
商標と一体になった信用は、商標が使用されることにより形成されると考えられています。
このため、使用されていない商標は社会的に保護すべき信用が形成されていないものとして裁判では扱われます。
ですので、よく使用されていて一般需要者に広く認識されているような商標については損害賠償は認められますが、使用もされず放置されているような商標では損害賠償請求を行うのは難しい、というのが現在の裁判の実務です。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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