商標登録は何のためにするのか、が分かる

初めに

商標登録について説明するウェブサイトは多くあります。「商標登録とは、商標法でこう定められている」との内容を説明する弁理士のウェブサイトや、「商標登録は、実務上こう進める」との内容を説明する特許事務所のウェブサイトは多くあります。

しかし、これだけ商標登録に関連するウェブサイトがありながら、肝心の「商標登録は何のためにするのか」について説明するウェブサイトがほとんどありません。

この点についてあなたは気付いていたでしょうか。

何のために商標登録をするのかについて説明をしているところが少ないのには理由があります。

商標登録の専門家にとっては事業上商標権を確保することはあたり前であって、商標権を取得しないで済ますとの発想が専門家側には全くないです。お客さまの手続を進める側にとってはあまりにも当たり前すぎて、商標登録するのはこれこれのためだ、とかいったことは、お客さまから質問がない限り、特に今更説明をしようとはしないです。

それは、コンビニのホームページで「何でコンビニを利用しなければならないか」とか、映画館のサイトで「何で映画を見なければならないか」とかをいちいち説明していないのと同様です。

さらには論理的にいって、そもそも商標登録の目的について疑問を持たない人が、このページを見ることはないです。

逆にいうと何のために商標登録をするのかについて理解している人だけが、商標登録についてのホームページをみます。

ウエブサイトを作る側も見る側も、商標登録の目的について互いに話し合うまでもないことになっています。

ただ7年連続、商標登録出願上位5位以内をいつもキープしているたった一つの特許事務所の所長として、あなたに見落として欲しくないと考える重要ポイントはいくつかあります。

ここでは今更人には聞けない商標登録の目的に関する四つの重要ポイントについて説明します。

商標登録の目的その1:拠点確保の手段を得る

他人が無断で、こちらの商標権と抵触する範囲で商標を使うことを防ぐこと。これが一つ目の商標登録の目的です。

より広い視点で捉えると、自社の社名、商品名、サービス名、会社マーク等を商標登録をする目的は、ビジネス上の拠点を確保する手段を得るためと言い換えることもできます。

登録により得られる商標権は土地の権利と似た性質を持っています。

勝手に他人がこちらの土地に入ってきた場合には、人の土地に無断で入らないようにいうことができます。

商標権の場合も同様です。

こちらの商標権と抵触する範囲で無断で商標を使う他人に対して、個人や会社を問わず、その商標を使うことを止めるようにいうことができます(差止請求)。

商標権で保護されているこちらの区域に無断で入るな、ということです。

さらにこちらの駐車場に無断で車を停めている他人に対して、無断で車を停めていた期間分の駐車料金を払ってください、ということができます。

商標権の場合も同様です。

こちらの商標権と抵触する範囲で無断で商標を使っていた他人に対して、過去に発生した損害分を賠償するように請求することができます(損害賠償請求)。

これらの権利は商標法に定められたものであり、国があなたに保証しているものです。

商標権を持っていない場合には、他人に対してこちらの使っている商標の使用を止めろという商標法上の根拠はないです。

互いに商標権を持っていないもの同士が、互いに抵触する範囲でそれぞれの商標を使用していたとします。この場合、どちらの側からみても、自分の商標が他人に無断で使われている、とそれぞれ主張することが可能であり、容易には問題は解決しません。

商標登録を済ませておけば、商標権を持っている側が正義の旗を持っていることになります。正義の旗を持っていない側は、法律違反をしている悪人、という立場になります。

ちなみに商標権は、先に特許庁に商標登録を済ませた側に発生します。誰よりも先に商標の使用を開始した者であっても、現在の法律の枠組みでは、先に商標を使ったという事実だけでは商標権者になることはできない仕組みになっています。

商標登録を済ませていないと、こちらの商標を他人に無断で使われた場合でも文句がいえない状況になります。この場合は、こちらの土地に他人が勝手に出入りしてもよい状態になります。

ビジネスがうまくいくと、他人がこちらの土地に勝手に入ってきて、その土地でできた成果物を根こそぎ横取りしようとします。

このような状況を防ぐために、商標登録により他人が無断でこちらの領域に入ってこないようにして、ビジネスの拠点をまずは確保します。

商標登録の目的その2:独占展開の手段を得る

商標登録が済んでビジネス上の拠点が確保できると、あなたの業務に使用する登録商標は他人は無断で使えないから、実際の市場であなたの商品やサービスを同じ登録商標により独占して展開することが可能になります。

(1)日本国内で独占的に登録商標を使用できます

商標登録により商標が登録されると、登録商標を日本国内で独占的に使用することができるようになります。この権利のことを「専用権」といいます。

また第三者がこちらの商標権と抵触する範囲で商標を使用することも防止できます。この権利のことを「禁止権」といいます。

日本の法律の効力が及ぶのは日本の領域内だけです。ですので、外国で商標権が必要な場合には、原則としてそれぞれの国ごとに商標登録出願をする必要があります。

ちなみに北海道のラーメン店と、沖縄のラーメン店との関係のように、まったく商圏が噛み合わない場合でも、一方が他方の商標権を侵害する場合には、侵害していることになる商標を使うことはできません。

また商標権は権利の更新が10年単位でできますが、この更新手続を重ねることにより、理論上はほぼ無限に権利を維持することができます。

一つの商品が爆発的に売れたときに、その商品名が登録商標で保護されている場合には、他人はその登録商標を使うことができません。本当はマネした商品を売りたいのに、本家本元がばんばん売れていくのを指をくわえて見ている以外に方法がありません。

(2)拠点がなければ時間の経過と共に売上が下がります

商標登録を済ませておかないと、時間の経過と共に経営が苦しくなります。こちらのビジネス拠点が儲かると分かると、ならず者たちがあなたの商圏へ土足で入り込んでくるからです。

こちらのビジネスが儲かれば儲かるほど、これらのならず者たちを呼び寄せる結果になってしまいます。このような状態になれば、時間が経てば経つほど、こちらのビジネスが食いちぎられてしまいます。

こんなことにならないように、商標登録によりがっちり拠点を確保した上で、日本全国規模で事業の独占展開を図ります。

かつては全国規模の事業展開は一定規模以上の体力のある企業でないと困難でしたが、今ではインターネットにより地域の垣根を越えて商圏を広げることができるようになっています。

(3)独占展開上、注意すべきことがあります

商標登録を済ませてビジネスの独占展開を図る前に、間違えやすいところがあります。

それは、多くの方は、商圏の独占を考えて、「強い商標」ではなく、「弱い商標」を選ぼうとすることです。

「弱い商標」とは、商品や業務そのものについての一般名称です。例えば、タクシー業務に商標「観光タクシー」とか、果物の販売に商標「みかん」等です。

「強い商標」は事業規模の大きいところが選ぶものであり、規模の小さいところは「弱い商標」を選ぶ方が有利、と思うかも知れません。

けれども「弱い商標」は麻薬と同じで、じわじわあなたの事業をむしばみます。商標権が得られないので、時間が経てば経つほど、ならず者の事業参入が増加して売上が下がります。

こんなことにならないよう、最初にしっかり「強い商標」を取得するようにします。

商標登録の目的その3:知名度向上の手段を得る

商標登録により拠点を確保し、あちらこちらに登録商標を使用したビジネスの独占展開を進めると、時間の経過と共に登録商標の知名度が向上します。

例えば、コンビニでアイスクリームを買うとします。

最初はどのカップアイスがおいしいか分かりませんので、雰囲気でカップアイスを選んで買います。

そのうちだんだん自分にお気に入りができてきます。私の場合は「明治エッセルスーパカップ」が好きです。

そして現在では、カップアイスといえば、私は「明治エッセルスーパカップ」を選んでいます。
家族にアイスクリームを買ってきてもらうときには、「明治エッセルスーパカップ」を指名します。

このお客さまから「指名される」、というのがビジネスを進める上で、超・重要ポイントです。

アイスクリームを売っている店が本当に売りたい商品は、利益率の高い商品です。平たくいえば、安く仕入れて高く売ることのできる商品です。

けれども私はお店の利益率には全く興味がありません。私が「明治エッセルスーパカップ」が欲しい、と言えば、どのお店も「明治エッセルスーパカップ」を売らざるをえません。

このように指名買いさせるものが「強い商標」の一例です。

反対に「弱い商標」とは、例えば、「カップアイス」等の商品のカテゴリー名そのままの商標等です。
商標のことを良く知らない段階だと、多くの方はまずこのような弱い商標を自己の商標に選びます。

弱い商標の場合は、弱い商標自体が商品の説明になっていますので、その商品が何であるかをお客さまに説明する必要がないからです。

仮にあなたの商品にアイスクリームがあったとします。この商品に「カップアイス」との商標を付けたとします。

このような商標を特許庁に商標登録出願しても審査に合格することができません。「カップアイス」はみんなが使う必要のある表記ですので、一個人に独占させる理由がないからです。

*注意:商標の一部分に「カップアイス」の文字を含む商標の場合は登録される可能性があります。それは、商標の一部分に「東京」との地名表記を含む商標であっても全体として地名表記でなければ登録される場合があるのと同じです。

商標登録ができないままに商品発売を進めたとします。この場合、市場に他社から同じような「カップアイス」との商標を付けたアイスクリームがでてきても、それをストップさせる手段がありません。

もうかると分かれば、どんどん「カップアイス」との商標を付けた業者が参入してきて、売上は参入業者数の頭割りとなるため、売上は時間の経過と共に下がります。

これに対して強い商標の場合はお客さまから「指名買い」を受けますので、他社の市場参入があったとしても、それまでに知名度をアップさせて指名買いが入るような体制を築いておけば、弱い商標の場合と比較して影響を受けることがないのです。

商標登録の目的その4:商標権収入の手段を得る

あまり知られていないかも知れませんが、実は商標権そのものは価値を生み出します。

最初に商標権の性質は土地の権利に似た性質を持つと説明しました。

登録商標が一定以上有名になってくると、その登録商標についての商標権をライセンスして欲しい、売って欲しい、という方が現れ始めます。

土地の権利の場合と同じように、ラインセスして(つまり貸し出して)収入を得ることができますし、売却して(有償で権利移転する形を取ります)収益を得ることもできます。

私のお客さまの中には、商標権のライセンス収入だけで、事実上生活費の全てをまかなっている方もいます。

つまり、一定以上登録商標が有名になると商標権自体が価値を自ら生み出すようになる、ということです。

商標登録は、本当は、商標権自体に価値を生み出させるために行うといっても過言ではありません。

次に商標権収入の発展のさせ方について、宅配業の場合を事例に考えてみましょう。

(1)フロービジネスの事例:宅配業の場合

宅配ビジネスの場合、お客さまに届けることのできる荷物の数でほぼ売上が決まります。
しかも宅配ビジネスの当事者は、荷物を届けることによってのみ、収入を得ています。

このように、働いた分だけの収入が得られるビジネスのことを「フロービジネス」といいます。

フロービジネスの問題点は、実質自身の持ち時間をお金に換えている点にあります。ビジネスに真面目に取り組めば取り組むほど、収入は得られますが、そのビジネスに当事者が釘付けにされる点が問題になります。

(2)フロービジネスからの転換事例:宅配業からフランチャイズビジネスへ

一人で宅配業を進めていた段階から、そのノウハウをパッケージ化して、商標権により同じビジネス形態でライセンス業を行います。

ライセンシー(ライセンスを受ける者)が一定以上集まれば、ライセンサー(商標権者で、ライセンスを行う人)は、自身が宅配業をしなくても生活できる収益基盤が得られます。

そうするとこれまでとは違って、自分自身が自分の現状のビジネスに釘付けにされなくなります。時間に余裕ができるため、次の拠点確保、独占展開、知名度向上、商標権収入に向けたサイクルを回し始めることが可能になります。

このようにして現在のビジネスを拡張させていきます。

働いた分だけの収入が得られるビジネスである「フロービジネス」から脱却して、あなたが直接時間を提供しなくても収益が得られる「ストックビジネス」を量産します。

「ストックビジネス」とは、それまで一定期間働いて構築した収益構造により、ある時点以降はその構造自体が収益を生み出すビジネスの枠組みのことをいいます。

ここでは商標権を軸としたライセンス収入によるストックビジネスに光をあてましたが、それ以外にもストックビジネスの形態は無限といってよいほどあります。

要はアイデア次第、ということです。

(3)事業の上昇スパイラルの後は、商標権を軸とする事業一括売却による脱却も可能

商標権による拠点確保を行わないビジネスの場合は、あたな自身がご自身のビジネスに拘束されてしまい、いつまでたっても現在の立ち位置から離脱することができません。

これに対して商標権を使用したストックビジネスの場合には、商標権については移転の形で有償で売却できる性質があることを利用して、それぞれの商標権で構築したビジネスを一括売却することにより、現状のビジネスから脱却して次の異なるステージに向かうことも可能になります。

ファーイースト国際特許事務所

平野泰弘所長弁理士