アンブッシュ・マーケティングとは?商標権だけではない法的保護の表と裏

アンブッシュ・マーケティングとは、待ち伏せを活用した広告戦略の一つである。そもそもアンブッシュ(ambush)とは待ち伏せて攻撃する、との意味があり、「ambush at night」といえば「夜襲」になる。不意を突いて襲う、というべきか。アンブッシュ・マーケッター達は公式スポンサーでもなく、公認ライセンスもないのに、イベントの際に不意に出没して、あたかも正式なライセンシーのように振る舞う。イベント主催者側から見ると正に取り締まるべきゲリラのように見えるだろう。

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ファーイースト国際特許事務所の弁理士・弁護士

(1)アンブッシュ・マーケティングとは?

待ち伏せ広告戦略の一つ

アンブッシュ・マーケティングの言葉自体、広告業界、ライセンス業界関係者以外にとっては、あまり馴染みのない言葉だと思う。

アンブッシュ・マーケティングに関しては、私があれこれ説明するよりも、ウィキペディアの英語版がよくまとまっているのでここで引用する。

アンブッシュ・マーケティングまたはアンブッシュ広告とは、競合広告業者よりも目立つように競い合うイベントで、広告業者が「待ち伏せて襲う」広告戦略の一つをいう。「アンブッシュ・マーケティング」の言葉は市場戦略家であるジェリー・ウェルシュの造語である。アンブッシュ・マーケティングの言葉が作られたのは1980年代、ジェリー・ウェルシュがアメリカンエキスプレスに貢献する世界的な市場責任者として勤務していた時のことだ。
英語版「WIKIPWDIA」から

アンブッシュ・マーケティングの具体例

一大イベントの際などに、そのイベントの正式な許可を得ていないのに、そのイベント主催者から何らかの広告許可をもらっているように誤解されるような広告例が考えられる。

  • イベント会場までの道路の両側に、イベントロゴに加えて無許可の宣伝広告文を掲載した垂れ幕を掲示する
  • イベント会場の上空に、イベント名と共に無許可の宣伝広告文を記載したアドバルーンを揚げる
  • 「応援」との名目で、イベントのシンボルマークと共に無許可の宣伝広告文を店頭に張り出す
  • イベント会場の一角がその色で埋まるくらいに、無許可の宣伝広告文とイベントのシンボルマークが表示された特定色のTシャツを観客に着させる
  • イベント会場の観客席で、イベントのネーミングと共に、無許可の宣伝広告文を記載した横断幕を掲げる

商標権に詳しくなくても、無断でイベントに関連するネーミング、ロゴ、シンボルマーク等を使用すると問題が生じるであろうことは予測できるだろう。

大きなイベントの場合は、通常、ネーミング、ロゴ、シンボルマーク等の商標権は既に主催者側が押さえている。もし商標権を押さえていないと、別の商標権者からイベントの開催中止を求められるからだ。

大きなイベントの主催者側が、商標登録を済ませていないという、初歩的なミスは通常は起きない。だから、もしかすると商標権がないのでイベント関係のロゴは使えるのでは、という甘い見通しは持たない方が安全だ。

(2)登録商標を使わなければ商標権の問題は生じないのでは?

登録商標を使わなくても問題が生じるケースはある

イベント名、シンボルマークなど、イベントと関係のある登録商標を使わなければ大丈夫ではないか、と考える方がいるかも知れない。けれどもこの考え方はある意味危険だ。

商標権の範囲は、登録商標以外にも、登録商標と近似したものまで届くからだ。このため登録商標を暗示させるような表記をしたケースでは、商標権侵害で訴えられる可能性は捨てきれない。

また商標登録されているのは、何もイベント名やシンボルマークとは限らない。キャッチコピーやマスコットのキャラクター等も登録されている場合がある。

こういった権利設定がされているものを許可なく知らず知らずのうちに使わないようにすることも大切だ。

(3)商標権絡みの表記をしなければ大丈夫か?

商標法以外の法律も働く点に注意が必要だ

商標権で訴えられるというなら、イベントと関係のある商標は一切表記しない、という考え方もあるだろう。

この場合でも、やはりイベント主催者から訴えられる可能性は残る。イベントを保護しているのは商標法だけではないからだ。

商標登録がされていないことを確認した場合であっても、例えば、有名な表示を無断で使用していると不正競争防止法違反で訴えられることもある。

またイベント会場で無断で宣伝広告行為をすると、イベント会場利用規約に反するとして排除される場合もありうる。

さらにイベント会場で無断で横断幕を掲げると、イベント会場の敷地内に無断侵入したとして訴えることも考えられる。

加えて基本的に、法律上、保護されるべき利益の侵害があった場合には不法行為が成立する場合がある(民法709条)。何が保護されるべき利益に当たるのか、当事者同士でも争いが出るケースはもちろんある。ただ、イベント主催者側が保護されて当然の利益が侵害されたと感じた場合には、裁判に訴えることができる状態になる。

このため、たまたま商標権をクリアできたとしても安心はできない。全てはイベント主催者側のさじ加減次第だからだ。

(4)五輪主催者側は本気

アンブッシュ・マーケティング排除の動き

大きなイベントではアンブッシュ・マーケティングを排除しようとする動きもある。

例えば、アンブッシュ・マーケティングは、オリンピック・パラリンピックのブランドを損ねるものであると、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は強く警告している(「大会ブランド保護基準」から)。

オリンピック活動を盛り上げようとする善意の行為も、知的財産権に抵触するような行為は、大会組織委員会側からみれば大きなお世話に写るのだ。

五輪主催者側としても、多くのスポンサーに支えられて競技の開催ができる。お金を払わなくても他のスポンサーと同等の地位が無料で得られるなら、わざわざ進んで誰も五輪競技のスポンサーになろうとはしない。

五輪主催者側の姿勢が甘いと、競技を支えるスポンサーが本当にいなくなる危険がある。このため五輪主催者側は今後もアンブッシュ・マーケティングを追及排除する手を休めることはないだろう。

五輪絡みで逮捕者も

東京五輪ロゴ、不正使用の疑い ピンバッジ販売の男逮捕

2020年東京五輪・パラリンピックの文字商標を無断で使ったピンバッジを販売したとして、警視庁は、愛知県愛西市稲葉町のインターネットショップ経営者を商標法違反(侵害とみなす行為)容疑で逮捕し、15日発表した。
2017年6月15日付「朝日新聞」から

五輪ロゴを無断使用 ピンバッジ販売目的で所持、中国籍の2人を逮捕 警視庁

東京五輪・パラリンピックの文字商標「TOKYO2020」を無断使用したピンバッジを販売目的で所持していたとして、警視庁生活経済課は商標法違反の疑いで、中国籍の夫婦を逮捕した。2人とも容疑を認めている。
2017年10月24日付「産経ニュース」から

上記の逮捕例で分かる通り、五輪がらみのエンブレムなどは、販売した事実がなくても、販売目的で所持しているだけで逮捕される理由になる。

特に、ピンバッチ加工業、印刷業を営む方は、五輪がらみのエンブレム製造・印刷の発注があった場合には、正当な手続を経た上での発注であるかどうかを都度、確認するのがよいだろう。

これを怠っていると、いきなり検挙される可能性もあるから注意して欲しい。

(5)まとめ

ゲリラマーケティングは、それを実行する方はちょっとした知恵比べのつもりかもしれない。ただ、イベントの主催者側は、イベントの信用にただ乗りする行為を見逃すことはしないだろう。信用をただ乗りされて黙っている方がおかしいからだ。

アンブッシュ・マーケティングは、発想としては面白いと思う。だた、それをそのまま実行しては商標法違反を始め、各種法令を違反することにもなりかねない。今後の五輪開催に向けて、おもてなしをする側の国の品位と誇りを持てるようなマーケティング戦略を検討してもらえるよう、広告関係者にぜひお願いしたい。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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