ヤクルトの容器が認められたのはつい最近!?形状を巡る立体商標事件

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(1)ヤクルトの容器の特徴

(1-1)ヤクルトのプラスチック容器

今から50年近く前の1968年に、ヤクルトの包装用容器はそれまで使われていたガラス瓶容器の代替品としてプラスチック容器に変更になりました。

このヤクルトのプラスチック容器は当時としては画期的なものです。落としても割れない、軽いといったプラスチックの特徴を活かして世の中に登場したのがヤクルトの容器でした。また低コストで大量生産できることから容器自体を回収再利用する必要がなく、使用後は破棄されるワンウェイの用途にぴったりであると当時は考えられました。

(1-2)特徴

容器のデザイン

ヤクルトの容器は著名なインテリア・デザイナーである剣持勇氏が担当しました。この容器のイメージは「こけし」にあるとのことです。

このヤクルトの容器のデザインは当時は斬新的でした。

実際、ヤクルトの容器についてはグッドデザイン・ロングライフデザイン表彰を受けるに至っています。

またヤクルトの容器のデザインには独特のくびれがあります。

ヤクルトの容器は50mlと中味が少ないため、飲んだ後に乳酸飲料を飲んだ気がしない問題があります。この問題を回避する工夫がこのくびれです。

このくびれを設けることにより、容器の中味を飲むときに一気に内容物が容器からなくならないように工夫されています。数回に分けて中味を飲むことができるように工夫したことにより、ヤクルトを飲んだ際に物足りなさを感じにくくするようになっています。

容器の軽さ

プラスチック製のヤクルトの容器が登場する前はガラス製の包装容器が使用されていました。新たにプラスチック製となったヤクルトの容器は、従来のガラス瓶よりも軽いという特徴があります。

このため運搬が楽になる、一回で多くの製品を運ぶことができるという利点が生まれました。
さらにガラス製の包装容器よりもプラスチック製の容器は低コストで短時間に大量生産できるため、容器自体を回収再利用する必要がなく、使用後は破棄されるワンウェイの用途にぴったりであると当時受け容れられました。

容器の使いやすさ

プラスチック製のヤクルトの容器の場合は全ての容器が新品であり容器の使い回しがないため、衛生的です。

またガラス製の包装容器の場合は落としたり、衝撃を与えたりした場合には割れるかひびが入り商品として扱い難いのに対し、プラスチック製のヤクルトの容器の場合は落としても割れず、簡単には破損しないので扱いやすい特徴があります。

さらにプラスチック製のヤクルトの包装容器は海外でも同じ形状で販売され、立体商標として登録されています。

(2)これまでの商標登録

(2-1)これまでの商標登録の条件

従来

立体商標制度が導入される以前は、商標登録できるのは文字や記号、図形などの平面的な形状のみに限定されていました。
ネーミングやマーク等は平面的な二次元で表現されることが通常であるので、立体商標制度が導入される以前は立体的形状については商標法では保護されていませんでした。

1996年の商標法改正

1996年の商標法改正により、立体的な形状も商標登録が可能となりました。

立体商標の制度が導入されたきっかけは、立体商標について保護を必要とする事例が実際に存在した点にあります。
法改正により立体商標についての問題を解決する方向に動く時がきた、ということです。

立体商標制度が導入する前でも、立体的形状について、その立体的形状の斜視図や斜めから撮影した写真などを使って商標登録されている事例があり、やむをえず立体の商標を平面の商標に変換して登録を受けていました。

また直接立体商標を保護する規定が存在しないので、他の法律を利用して間接的に立体商標の保護を求める事例が存在しました。

具体的には商標法とは別の法律である不正競争防止法に規定される「商品表示」の中に商品の形状を含める形で、訴訟により立体商標の保護を求める事例がありました。

さらに国際的にも立体商標を商標として認める外国もあることから、国際基準で立体商標を保護する必要性もあった背景があります。

立体商標制度導入の決め手

立体商標についても特定の商品・サービスなどを見て、ある企業のものであることが分かるケースが多いため、商標法に定める商標についての定義の中に平面的形状のもの以外にも立体的形状が含まれる点が明記されました。

これにより、商標登録により立体商標が保護される点が明確になりました。

利点

店舗の前に表示される店頭人形などを立体商標として保護することができます。このためライバル会社は無断では商標登録された店頭人形を使用することができなくなります。

店頭人形の他、ゆるキャラ等のご当地キャラクターを商標登録できることから、同様な商品やサービスを扱う業種の場合、立体商標を使ったキャラ付けにより他社との差別化を図ることができます。

(2-2)立体商標の条件

立体商標制度により三次元の立体的形状も商標登録の対象となりましたが、立体的形状であっても商標登録できないものがあります。どのような立体商標が審査に合格できないか、順番に見ていきましょう。

商品等の性質から通常備える立体的形状のみからなる場合は登録できません

一般需要者が立体商標の全体を観察した場合に、商品の包装の形状そのものの範囲を出ないと認識される場合には商標登録の審査に合格できません。商品の包装の形状そのものの範囲を出ない立体商標は、特定人と関係があるかどうかがわかりませんので、商標として自分の商品か他人の商品かを見分ける商標としての自他商品識別力がないと考えて登録しないのです。

世の中に溢れた形状の場合は登録できません

世の中に通常あるようなありふれた形状を商標登録すると他の人が困るからです。ありふれた形状について登録できたらこんなにおいしい話はないのですが、そうは問屋が卸さないということです。

商品等の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる場合は登録できません

商品等の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる立体商標の具体例としては、車のタイヤとか、ボルトやナット等の工業規格品等が該当します。

商標権は更新登録申請の手続さえ忘れなければ半永久的に存続します。権利の存続期間に実質的に制限がないのが商標権の特徴です。使用する際にどうしてもその形状を回避できない商品の立体的形状について商標を認めると、事実上、その商品についての独占販売を半永久的に認めることになってしまいます。こうなると他の業者はその立体商標を使用することができなくなってしまいます。

このような事態になると結果的に自由競争を不当に制限することにつながってしまうので、商品等の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる立体商標は登録が認められないことになっています。

(3)容器を巡る商標裁判の行方

(3-1)経緯

第一回戦はヤクルト側が敗退

1997年にヤクルトはプラスチックの包装容器について立体商標の登録出願を行いました。この時は審査で不合格になり、その結果を不服とする審判でも拒絶審決(審判番号平成11年第16888号)、さらに東京高裁に審決取消訴訟(平成12(行ケ)474商標権行政訴訟 )も行いました。

日本経済新聞はこの経緯を次のように報道しています。

ヤクルトによると、1997年に容器の立体商標を出願したが、この時は最高裁まで争って認められなかった。

2010/11/16付日本経済新聞『ヤクルトの容器は「立体商標」知的財産高裁』

結果として、ヤクルト側の主張は認められませんでした。

第一回戦のヤクルト側敗退の理由

商標登録が認められる条件として、商標が自他商品識別力を備えていることが要求されます。
自他商品識別力とは、自分の商品と他人の商品とを区別することのできる商標の機能のことをいいます。例えば、何の目印もついていない単なる工業規格品を提示されたとしても、その工業規格品がどこが提供した商品か判別することができません。

これに対してその工業規格品に商標が付されていれば、その商品が他の同様な商品とは違うということが分かります。この手がかりを備えていることが商標として必要です。

第一回戦のヤクルトの立体商標の場合は、ヤクルトの文字やロゴマークが付されていなかったため、自他商品識別力がないものとして審査不合格の結論が維持されています。
ヤクルトの容器

要はヤクルトのロゴがない状態ではヤクルトの立体商標はただの収納容器に過ぎないため登録は認められない。こういうことです。

当時の特許庁の商標についての審査基準では、容器の立体商標にはロゴが不可欠であり、ロゴがない場合には審査に合格することができませんでした。

審査段階での拒絶査定に不服のヤクルト側は特許庁に対して拒絶査定不服審判を請求しましたが、特許庁における審判でも拒絶審決となり、ヤクルトの立体商標の商標登録は認められませんでした。

この拒絶審決を不服としてヤクルト側は裁判に訴えましたが、東京高裁と最高裁も特許庁の登録を認めないとの判断を支持した結果となりました。

ヤクルト側はリベンジ戦を挑むことに

2008年9月、ヤクルト側はヤクルトのプラスチック製包装容器について再度立体商標の出願を行いました。

きっかけは、同年5月に知財高裁でロゴ抜きのコカ・コーラの瓶について、立体商標の登録を認める判決が出たことです。

ロゴマーク等の文字情報が付いていないコカ・コーラの瓶の立体商標の登録が認められるなら、ロゴマーク等の文字情報が付いていないヤクルトのプラスチック製包装容器の立体商標の登録を認めても良いのではないか。コカ・コーラの瓶の立体商標だけ認めて、ヤクルトの立体商標が認められないのはおかしい、ということです。

(3-2)結果

ヤクルトのリベンジ戦においても特許庁における審査段階では登録は認められず拒絶査定になりました。さらに拒絶査定を不服として特許庁に拒絶査定不服審判を請求しましたが、ここでも敗退、拒絶審決になりました。

審判の拒絶審決を不服として、ヤクルト側は知財高裁に対して、特許庁がした審決の取り消しを求めて訴訟を行いました。

2010年11月:知財高裁が特許庁の審決を取り消し

平成20年9月3日付けでなされた本願商標につき商標法3条2項の適用を否定した審決は誤りであることになるから,審決は違法として取り消しを免れない。
知財高裁平成22(行ケ)10169 審決取消請求事件 商標権行政訴訟

知財高裁により特許庁の審決を検討した結果、最終的に特許庁の審決を取り消す判決が行われました。文字情報のないヤクルトの包装容器の立体商標について登録を認めないのはおかしい、という内容です。

これにより、文字情報のないヤクルトの包装容器は立体商標として認められることになりました。

知財高裁による判決の内容は「長年の使用により、容器の形状だけでも十分な識別力を獲得しており、登録されるべきである」、という骨子になっています。

単なる商品の包装容器であっても、長年の使用により特定の者が供給する商品であると需要者が認識した場合には例外的に登録を認めるとする救済規定(商標法第3条第2項)の適用が知財高裁で認められました。

文字情報のない容器の形状だけで立体商標の登録が認められるのは、コカ・コーラの瓶についで国内で2番目になります。

判決の理由

前提として、ヤクルトのプラスチック製包装容器は、1968年の販売開始以来、容器の形状を変えずに継続して販売されてきたことが取り上げられました。

実際ヤクルトは同種の乳酸菌飲料の中でも驚異的なシェアを獲得してきました。これは巨額の広告宣伝費をかけ、容器の形状を消費者に強く印象づけてきた結果ということができます。

判決の材料として、原告側のアンケート調査で、ロゴなしの容器を見た消費者の98%以上が「ヤクルトを連想する」と回答したことが取り上げられました。

また、形状が酷似した他社商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している消費者がいるなどの実情も判決においては考慮されました。

(4)ヤクルトの立体商標問題が残した課題

今回のヤクルトの立体商標が登録されたのは、文字情報などの手がかりなどが全くない、包装容器そのものです。

逆に文字情報などの手がかりがあれば、立体商標であっても比較的簡単に商標登録することができます。
この点をよく理解していない企業などが文字情報のついた立体商標について商標登録を受けたことを大きくPRしていることもありましたが、文字情報があれば特段、変わった事例ということはできません。

ただ今回のヤクルトの立体商標の場合は、実際に市場に流通していたのはヤクルトの文字情報を含むものでした。だから特許庁は頑なに商標登録を認めようとしなかったのです。文字情報の付いたもので使用しておいて、文字情報のないもので商標権を取るのはいかがなものか、というわけです。

ただ、知財高裁の考え方としては、実際の市場における流通品に文字情報が付いていたとしても、包装容器の形状そのものが有名になり、自他商品識別力を獲得した場合には、法律上保護すべき利益がある、とみるということです。

この判決に対して、これまで特段ヤクルト側が類似品排除に動いていないのに登録を認めてよいのか、という考え方があります。

多くの類似品がこれまで特段問題なく存在している中で、ある日突然、これまで使用しても何もとがめられることがなかった類似品が使えなくなると、市場は大きく混乱することも考えられます。

この点については、商標法の例外規定である第3条第2項の規定が、そもそも登録が認められない商標を一定条件下で認めるという例外規定である点に着目して、商標権の権利行使を認める範囲を厳格に解釈する必要があるのではないかと思います。

つまり、ヤクルトの包装容器の立体商標についての商標権の行使の幅を広げるとこれまで併存してきた類似品が突然使用できなくなり社会的混乱が生じるので、侵害判断の基準となる類似範囲を狭く解釈することにより、社会的混乱を防ぎつつ、類似品を排除する調整が今後必要になるだろう、と私は考えます。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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