商標権侵害の基準とは?警告された場合の対応と罰則の内容

商標法に違反して商標権侵害に問われるケースについては、新聞等のメディア情報や仲間からの情報により経営者なら一度は耳にすることがあると思います。ただどのラインを超えると商標権侵害となるのか、商標法違反で警告された根拠は何なのかについては分かりにくいのが実情です。ここでは商標権侵害の基準や罰則について、経営者として知らないと後で困る基本について分かりやすく解説します。

(1)商標権の侵害とは?

特許庁に商標登録出願の手続をすることにより、審査を経て特許庁における設定登録により商標権が発生します。商標権の怖いところは、商標権の存在を知らなくても、商標権に抵触する行為をすれば商標法に違反したとして警告や罰則を適用されることがある、ということです。

商標権の侵害とは?

商標権は、一つの例としていわば土地の権利であると考えると理解しやすいです。土地には誰でも入ることのできる公有地と、勝手には入ることができない私有地とがあります。商標権は、この私有地に設定されている権利であるとここでは考えてください。

私有地に無断で入り込むと、不法侵入として法律の罰則を受けます。

これと同様です。商標権の規定する権利範囲の境界を越えて権利範囲の中に入ると、商標法に違反するとして罰則の適用があります。

商標権の侵害にあたる行為

商標権とは、商標権者が登録商標やこれと類似する商標を、指定商品や指定役務に関して専用権と禁止権との範囲で独占排他的に使用できる権利のことをいいます(商標法第25条、第37条第1項第1号)。

もちろん商標権者が許可した者が登録商標を使用しても商標権侵害にはなりません。

また独占排他的に使用できる、とは商標権者以外が許可なく上記の範囲で登録商標を使用した場合には、裁判所に訴えを提起したり、警察に罰則の適用を求めたりできることをいいます。

商標権の範囲は専用権の範囲と禁止権との合計範囲です。これらの関係については下記の図を見てください。

図1 商標登録証に記載された内容と商標権の権利範囲の関係

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登録商標とは、特許庁に登録されている商標そのもののことをいいます(商標法第2条第5項)。また商標権は登録商標についてオールマイティに発生するのではなくて、登録の際に指定された商品・役務の範囲に関連して発生します。

商標権の侵害になる場合は次の通りです。

既存の登録商標と同一の指定商品・指定役務に商標を使用する行為

既存の登録商標と同一の指定商品・指定役務に商標を使用する行為とは、専用権の範囲内で商標を使用することをいいます。

専用権とは、商標権の中核部分であり、登録商標と同じ商標について、指定商品または指定役務と同一の商品または役務に及ぶ権利です。

指定商品・指定役務にと同一・類似の商品・役務に、既存の登録商標に類似する商標を使用する行為

指定商品・指定役務にと同一・類似の商品・役務に、既存の登録商標に類似する商標を使用する行為とは、禁止権の範囲内で商標を使用することをいいます。

禁止権とは、商標権の中核部分を取り囲む部分であり、登録商標と類似する商標等について、指定商品または指定役務と類似する商品等に及ぶ権利です。

図2 商標権に含まれる専用権と禁止権との関係

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商標権に含まれる専用権と禁止権は、次の合計四つのパターンに分類されます。

専用権の範囲のパターン(同一の範囲)

  1. 登録商標と同一の商標について、登録された指定商品・指定役務と同一の商品・役務の範囲

禁止権のパターン(類似の範囲)

  1. 登録商標と同一の商標について、登録された指定商品・指定役務と類似する商品・役務の範囲
  2. 登録商標と類似する商標について、登録された指定商品・指定役務と同一の商品・役務の範囲
  3. 登録商標と類似する商標について、登録された指定商品・指定役務と類似する商品・役務の範囲

専用権は商標登録証に記載されている範囲です。

*正確には特許庁に管理されている商標原簿に記載されている内容に従いますが、商標権が発生した後に権利内容の変更手続をしていなければ、まずは登録証を参照します。

専用権の内容は登録証に書いてある通りですから理解しやすいです。禁止権は商標権を保護するための類似範囲であり、専用権を取り囲むように配置されています。

商標登録証に記載されている範囲と類似する範囲にも商標権の効力が働く点に注意が必要です。

上述した専用権や禁止権の範囲で、登録商標に関係する商標を使用すると、商標権侵害になる、ということです。

商標権侵害の具体例

専用権や禁止権の範囲内で下記の行為をすると商標権の侵害になります。

  • Tシャツの首の部分のタグに商標を表示する行為
  • お菓子の包装紙に商標を表示してお菓子を包装する行為
  • タクシーの業務を行う際に、車体側面に商標を表示する行為
  • 飲食業の店舗内で使用する食器等に商標を表示する行為

侵害の予備行為となる行動も「商標権侵害」となる

専用権や禁止権の範囲内の商標の使用ではない場合でも、商標権の侵害になる場合があります。

例えば、指定商品用の、類似商標を付した包装紙を譲渡のために所持する行為とか、商品等に表示する前の商標エンブレムそのものを、商標権侵害の目的で所持する行為などは、商標権の侵害の予備行為として商標法に違反する行為として規定されています(商標法第37条各項)。

これらの商標権侵害の予備行為は商標を商品や役務に使用していないため、直接侵害ではありませんが間接侵害になる、と判断されます。専用権や禁止権の範囲内ではない商標の使用までも商標権侵害とみなされる点に注意が必要です。

(2)何をしたら商標権侵害になる?

商標権を侵害するかどうかには判定基準があります。

まず対比する商標同士が類似するかどうか、また商品・役務同士が類似するかどうかを判断します。そして商標を使用した結果、登録商標と同一か類似する範囲(正確には先に説明した専用権と禁止権の範囲)に入るなら侵害になります。

【商標権侵害になる判定パターン】

商標権侵害となるパターンは次の通りです。

  1. 商標同一・商品役務同一
  2. 商標類似・商品役務同一
  3. 商標同一・商品役務類似
  4. 商標類似・商品役務類似

【商標権侵害にならない判定パターン】

商標権侵害にはならないパターンは次の通りです。

  1. 商標非類似・商品役務非類似
  2. 商標同一・商品役務非類似
  3. 商標類似・商品役務非類似
  4. 商標非類似・商品役務同一
  5. 商標非類似・商品役務類似

つまり、対比する商標と、商品・役務とのうち、少なくとも一方が非類似なら原則として商標権侵害にはならないことになります。

逆にいうと対比する商標と、商品・役務のいずれも非類似でない場合には、商標権侵害を問われることになります。

次に、対比する商標同士や商品・役務同士が類似するかどうかに関して、どのように具体的に判断するのかについて説明します。

(2-1) 商標の類似

対比する商標同士が類似するかどうかは、外観・称呼・観念の三要素素に分解してそれぞれ検討します。原則として、それらの一つでも共通するなら、対比する商標同士は類似するものと判断されます。

商標の見た目(外観)

称呼や観念が違っても、商標の見た目が同じなら、外観が同一であるとして、対比する商標同士は類似すると原則判断されます。

例えば、「I(大文字のアルファベットのアイ)」と「l(小文字のアルファベットのエル)」とは、読み方や意味は違いますが、見た目である外観が共通しています。そうすると、外観からは「I」と「l」とは互いに類似しているといえます。

読み方(称呼)

外観や観念が違っても、商標の読み方が同じなら、称呼が同一であるとして、対比する商標同士は類似すると原則判断されます。

例えば、「ヤマセ」と「山清」とは、見た目や意味は違いますが、読み方である称呼が共通しています。そうすると、称呼からは「ヤマセ」と「山清」とは互いに類似しているといえます。

一般的な印象(観念)

外観や称呼が違っても、商標の読み方が同じなら、称呼が同一であるとして、対比する商標同士は類似すると原則判断されます。

例えば、「School」と「学校」とは、読み方や見た目は違いますが、意味合いである観念が共通しています。そうすると、観念からは「School」と「学校」とは互いに類似しているといえます。

総合的にみて出所混同の恐れがあるかどうか

商品購入時の消費者の注意の度合いが基準となります。また外観・称呼・観念は商標権者が意図するものではなく、一般需要者が登録商標を見てどのように判断するかを頭の中で考えて、審査官や裁判官が判断します。

また外観・称呼・観念の一つが一致する場合でも、他の要素が明かにことなるため出所混同の恐れが全くない場合には、互いに類似しないものと考えます。

例えば、「橋」と「箸」とは、称呼は一致していますが、日常の場面で「橋」と「箸」とは区別して扱われていますので、両者は非類似と考える等です。

(2-2) 商品・役務の類似

基本的には標章を付した場合に、出所の混同が生じるか否かで判断されます。
具体的には取引の実情を考慮して判断します。

例えば、商品の販売場所と役務の提供場所とが一致している場合には、商品と役務との違いはあっても、対比する商品と役務が類似すると判断される場合もあります。具体的としては、「電子出版物」との商品は、「電子出版物の提供」との役務に類似すると推定されます。

(3)知らないと怖い!商標侵害のリスク

(3-1) 法的なリスク

商標権を侵害すると、商標権者がこちらに対して民事的な手段として法的措置を取るリスクがあります。
法的措置とは、裁判所に訴訟を起こすことです。以下の措置は裁判所による判決があることが前提になります。

商標の中止を求められる

商標権を侵害すると、商標法に違反するとして商標の使用の中止を求められます。いわゆる差止請求です。

商標の中止を求められた場合、通常商標の表示を止めるのは困難です。商品そのもののパッケージに問題となる商標が印刷されている場合、全商品についてのパッケージの変更が必要になります。

さらにパッケージだけではなく、商品そのものに問題となる商標が表示されているシールが貼られている場合には、一個一個、商品からシールを剥がす作業が必要になります。百個程度なら対応が可能かも知れませんが、数千、数万個以上になると対応が困難になります。

商標の使用中止の要請により、事実上の営業停止、商品の販売中止、手持ち商品の破棄等を迫られます。

商標の付帯物の保有は認められず、商標の付帯物の破棄が命じられることになります。

付帯物の例

店舗に付帯しているもの

飲食業等のサービス業等では、問題となる商標が表示された看板、食器類、箸袋などが含まれます。

営業に付帯しているもの

名刺、ポスター、チラシ、カタログなどです。名刺やポスター等を販売していない場合であっても、これらにより、商標権の侵害がなされることが宣言されているに等しい場合などです。

電子的に付帯しているもの

HPやウェブサイト等に表示されている全てのロゴ・マークなども対象になります。

社名や商品名の変更を余儀なくされる

社名を使っても商標権の侵害にならない、と理解されている方が少なくありませんが、実は正確ではないです。

会社名が使えるのは、「普通に表示される方法で表示されている」という限定があるので、社名を変形使用したり、省略使用したり、デザイン化して使用したりした場合には商標権侵害になる場合があります。

また商標権を侵害するとは知らないで商品を販売し続けた結果、お客さまに慣れ親しんで頂いた商品名を変更しなければならない場合もあります。

他人の土地に無断で入って、一生懸命耕して果実がなった大きな木が得られたとしても、その木が自分のものになるわけではありません。

土地の場合には他人の土地であることが比較的分かり易いですが、商標権の場合は他人のものであると気が付くのが遅くなる場合があります。多額の広告費や開発費をつぎ込んだ後に、実はその商標は使えなくなったと分かれば、広告費や開発費は全てむだになります。

(3-2) その他のリスク

商標権者からの要求は、通常は商標法に違反する商標の使用中止だけではありません。商標権侵害により生じた損害賠償等についても請求されます。

損害賠償請求

現在は商標の使用を中止している場合でも、過去に商標を使用したことによる過去の侵害分に対しての損害賠償請求がくることがあります。

信用回復措置

商標法に違反することにより、商標権者の信用が損なわれたと商標権者が感じた場合には、信用回復措置として、謝罪広告などの掲載を求められることがあります。

買取要求

商標権者から商標権の高額での買取を迫られる場合があります。

(3-3) 刑事罰(商標法78条)

商標権を侵害した場合には、上記の民事的な措置だけではなくて、刑事的な措置の適用もあります。

商標権を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が科せられます。また、懲役や罰金についてはこれらが併用される場合があります。

法人や企業に対しても刑事罰の適用があります(商標法82条)

法人、企業、会社等は法律上の概念であり、商標権侵害行為をする実体は、会社の代表者や従業員等です。このため会社関係者が業務に関連して商標権を侵害した場合には、実行者個人に上述の刑事罰の適用がある他、法人に対しても三億円以下の罰金刑が科されることがあります。

(3-4) その他のリスク

ブランディングの低下

商標法に違反した場合、商標権侵害の実行者は警察に逮捕される場合があります。また警察に逮捕されない場合でも、商標権侵害に絡んで問題が発生している情報が外部に伝われば、お店・企業としての信頼・価値が下がる問題があります。

結果として、取引先や顧客離れが進むことになります。また各所から管理体制の甘さを追及されます。

上場企業の場合には商標権侵害に伴うトラブルがあることが漏れると、株価にも影響します。

精神的な負担

商標法に違反した場合、商標権を侵害したとして「侵害者」や「パクリ」等のレッテルを貼られることがあります。これらの情報がネットを通じて拡散した場合には、これまで築き上げてきた顧客に対する信用を一気に失うことにつながります。

(4)商標侵害訴えられたら、どうする?

商標権を侵害した者のうち、誰を訴えるかは商標権者の自由です。

このため自分の周囲にも商標権を侵害している者が多数いるが、誰も訴えられていないので自分は大丈夫、と考えるのは危険です。こちらだけを狙い撃ちされる場合もあるからです。

(4-1) 「商標権侵害の警告書」が届く

専門家である弁理士に警告書の内容が妥当かどうかを調査してもらう

商標法に違反した場合、いきいなり裁判所に訴えられる前に、最初は商標権を侵害することについての警告状が商標権者から送られてくることが多いです。

商標権侵害の警告状がきた場合には、商標権の専門家である弁理士に警告書を見てもらうことがよいです。内容が妥当でない可能性や、商標権者側に思い込みによる勘違いがある可能性もあるからです。

自己判断は危険

警告書の内容を鵜呑みにして即断で行動したり、その場を何とか収めようとして相手と不要な約束をしたり、その場の雰囲気に飲み込まれてしまう可能性があります。

その結果、本来なら払う必要のない大きなコストがかかる場合があります。

(4-2) チェックするポイント

相手は本当に商標権を持っているか

警告書が届いた場合には、警告してきた相手が本当に商標権者であるかどうかを確認します。

その相手が権利を行使できる立場にあるのかどうかが重要です。

使用差し止めができるのは商標権者自身か専用使用権の設定を受けた者に限定されています。このため単に登録商標について通常使用権の許諾を受けただけの者は差止請求や損害賠償の権利を持っていません。

また、商標権があることを知っているだけの部外者も差止請求や損害賠償の権利を持っていません。

通常使用権者や部外者から警告状が届いた場合には、しかるべき商標権者から連絡がないと対応できないことを、弁理士を通じて伝えます。

本当に侵害に該当するのか

相手が主張するような商標の使用の事実があるのかないのか確認します。何らかの行き違いがある場合もあるからです。

商標が同一または類似しているか

商標権の侵害が成立するためには、商標権者の登録商標と、こちらの使用している商標とが互いに同一か、類似している必要があります。

商標の類似性の判断は次の通りです。

まず相手の登録商標と自社の標章の同一性・類似性を検討します。

その結果、類似していると思われる場合、慎重な検討・判断が必要になります。

商標権の侵害になるかどうかについては取引実績も考慮されるため、弁理士との相談の際は可能な限り実績の分かる資料などを用意します。

商品・役務の類似性

自社の標章を使っている商品・役務が相手のそれに重複・類似しているかも判断の基準になります。

つまり、商標同士が仮に一致したとしても、商標権についての指定商品・指定役務と、こちらの使っている商品や役務同士が全く関係がなければ、商標権侵害に問われることは原則なくなります。

【注意】商品や役務に使う前の標章を表示する物を所持する行為も商標法に違反する場合があります。このため指定商品や指定役務とは関係なく商標権侵害になる場合もありえます。

「出所の混同」が生じているか

商標を使用することにより、実際に商標権者とこちらとの間で出所の混同が生じているかどうかもチェックポイントになります。

形式上は商標権の侵害にみえるような場合であっても、出所の混同が全く生じないような特別な事情がある場合には裁判の過程で判断要素の一つになる可能性があるからです。

ただし、出所の混同の有無の判断は、当事者同士でも見解が異なる場合が多く、高度な法的判断が伴うため、弁理士と協議の上、慎重な検討・判断が必要とされます。

警告された商標が現在一般名称として浸透しているか

過去には登録商標として商標権が存在していたが、現在では誰もが広く一般に使用するようになって普通名称化している登録商標が存在します。

例えば「うどんすき」とか「恵方巻」とかは登録商標であるにも関わらず、既に普通名称化していることから裁判所で商標権の行使が認められませんでした。登録商標はメンテナンスを怠ると、普通名称化して権利内容が空洞化した結果、使い物にならなくなる場合があります。

警告された商標が「過誤登録」されたものかどうか

登録商標の中には、本当は商標登録されるべきではなかったものが含まれる場合があります。商標権者の登録商標が過誤登録された場合には、商標権の行使は、権利濫用として裁判所で認められない場合があります。

(4-2) 商標権侵害品を転売している場合

商標権侵害品を輸入して転売したり、ネットオークションで捌いたりした場合には警察に検挙される場合もあります。この場合には証拠隠滅を防ぐため、事前警告なしにいきなり警察に逮捕される可能性もあります。

なお、警察は全ての商標権侵害者を検挙するわけではありません。このため商標法に違反している転売者が他にいたとしても、もし商標権を侵害している事実があるなら、自分が逮捕されないという保証はありません。

(5)商標権を侵害されている場合

商標権を侵害されている場合には、今度は上記の場合と立場が代わって、今度は防衛する側から攻撃する側に回ります。

(5-1) 商権者の権利

差止請求(商標法36条)

商標権者には民事的な措置として差止請求が認められます。
この請求権により侵害行為の差止請求を裁判所に対して行うことができます。

裁判所で差止請求が認められた場合には、商品の流通停止などや、侵害組成物(商品など)の廃棄、商標権侵害に直接関係する表示物などの除去等が認められる場合があります。

損害賠償請求(民法709条)

侵害者に故意・過失があった場合、不法行為として損害賠償請求ができます。

ただ、商標権侵害の場合には、自動車を盗まれて使用された等の通常の権利侵害事件と異なり大量の侵害品が一気に市場に出回ることがあるのに対して、侵害に伴う損害や因果関係の立証は非常に困難です。

また商標を表示するシールを大量に印刷して商品に貼るだけで大量の侵害品を作ることができ、インターネットのホームページで有名商標を表示することにより、簡単に需要者を集めることができる等、侵害に対して防御しにくい性質があります。

このため侵害されやすい商標権の保護を強化するために、次の規定が定められています。

  • 単位利益×譲渡個数を損害額と推定する規定(商標法38条1項)
  • 侵害者利益額を損害額と推定する規定(同38条2項)
  • ライセンス料相当額を損害額と推定する規定(同38条3項)

商標権が侵害された場合、損害の発生は原則として商標権者が立証しなければなりません。しかし通常このような立証は困難であり、適切な立法措置が取られなければ商標権が侵害され放題になる問題がありました。

またライセンス料相当額を損害額と推定する規定だけでは、侵害者は商標権侵害がばれた後にライセンス契約を結べばよいということになり、商標権侵害の抑制に欠けます。このため商標権侵害で得た利益そのものを損害額と推定し、さらに損害額の計算を簡単にする規定も取り入れられています。

いずれの規定も商標権者の能力を考慮して判断されます。例えば、大手メーカーの未登録商標を横取り的に登録した商標権者が大手メーカーを訴えた場合、自身が大手メーカーと同じ供給能力を持たない場合には、その請求が満額認められることはないことになります。

不当利得返還請求(民法703,704条)

本来なら権利者が得るはずであった侵害された利益を、不当利得として返還請求できます。この規定を利用することが可能です。

条件

ただし、損害賠償請求や不当利得返還請求には注意すべき点があります。
損害賠償請求権が時効消滅したときには、時効で消滅した部分については損害賠償を請求することができません。

訴訟に踏み切るかどうかに躊躇していて時間をロスした場合には、法律で定める3年の時効期間にかかることがある点に注意が必要です。

信用回復措置請求(商標法第39条で準用する特許法106条)

損害賠償請求に代えて、またはそれとともに、信用回復措置請求することができます。

具体的には、謝罪広告の掲載などを求めることができます。

(6)本当にあった商標侵害の事例

次に本当にあった商標権侵害の実例を紹介します。

(6-1) 面白い恋人(2011年11月)

一時期ニュースで話題になりましたので、経過をご存じの方も多いと思います。吉本興業によるパロディー商標「面白い恋人」事件です。

事件のきっかけ

石屋製菓が吉本興業とその子会社に菓子製品の販売差し止めを、2011年11月28日に札幌地方裁判所に請求したことが事件の始まりです。石屋製菓側は同時に、1億2000万円の損害賠償も請求しました。

石屋製菓側は、吉本興業の「面白い恋人」が自社製品の「白い恋人」の商標を侵害していると主張しました。

そもそもの問題点

消費者が「白い恋人」と「面白い恋人」を誤認しないかどうかが問題になります。

事件の流れ

2012年1月に、札幌地裁で第1回口頭弁論が開かれました。
双方の言い分は次の通りです。

石屋製菓

石屋製菓の主張については、「白い恋人」は、昭和 51 年の販売開始以来、30年以上北海道の土産として高い人気を得ていますが「面白い恋人」は「白い恋人」を丸ごと含むもので、知名度にただ乗りして不正に利益を上げている、というものです。

またこれがパロディでまかり通ると多くの者が後追いする、というものです。

吉本興業

吉本興業の主張については、「面白い恋人」はアイデアや総意工夫によるパロディ商品であり「白い恋人」とは異なるというものです。

2013年2月:和解

和解の内容は、吉本興業は今後も商品名として「面白い恋人」は使用できるが、同年4月以降に発売されるものについては、パッケージのデザインを石屋製菓と合意したものに変更する、というものです。

また営業圏の衝突を防ぐため、吉本興業の「面白い恋人」についての販売は関西六府県に限定されます。また1ヵ月以内の限定販売については、北海道と青森県を除いた地域で年間36回まで、との制限があります。

石屋製菓側は和解は可能であるとし、「『面白い恋人』の販売が実質的に関西に限定され、パッケージの変更で誤認混同の恐れがなくなったと判断し、和解に応じた」とのスタンスを取っています。

(6-2) スターバックスとエクセルシオールカフェのロゴ類似(2000年6月)

スターバックス側が、ドトールコーヒー系列のエクセルシオールカフェが使用しているロゴがスターバックスの使用しているロゴに類似しているとして、2000年6月に、不正競争防止法違反で訴訟を起こしています。

最終的にはエクセルシオールカフェ側がロゴを変更することで和解にいたっています。

(6-3) インスタントラーメン「どん兵衛」と広島地方の飲食チェーン「どん兵衛」(2010年7月)

インスタントラーメン「どん兵衛」を製造販売する日清食品が、山口県のうどんチェーン「どん兵衛」を相手取って、大阪地裁に「どん兵衛」の名称の使用中止と、1億1千万円の損害賠償とを請求しました。

日清食品側はうどんチェーン側がブランドのイメージにただ乗りした点を指摘しています。この指摘を受け、うどんチェーン側は名称の変更に応じるとしています。

(6-4) ダイレクトメール発送会社「札幌メールサービス」と“ゆうメール”(2000年)

ダイレクトメール発送会社である札幌メールサービスが保有する商標権(商標登録第4781631号、登録商標「ゆうメール」)を侵害するとして、「ゆうメール」を使っている郵便事業株式会社が東京地裁に訴えられました。

東京地裁第一審判決

東京地裁の第一審では、日本郵便側は「ゆうメール」を使ってはいけないこと、また「ゆうメール」との標章が印刷されたカタログを破棄せよとの判決が2012年1月12日に言い渡されました。

日本郵便側は判決を不服として控訴

日本郵便側は東京地裁の判決を不服として控訴した。

商標権買取による和解

最終的には日本郵便側が札幌メールサービス側の商標権を買い取ることで和解が成立している。日本郵便側は商標権を買い取ることにより、今後は登録商標「ゆうメール」の商標権者となるため、以降は自由に商標「ゆうメール」を使用することができます。

(6-5) ラーメン「山頭火」の商標使用事件

「らーめん山頭火」を運営する札幌のアブ・アウト社が、同じ商標でラーメン店を経営する有限会社「山頭火」に対して商標の使用中止を求めていた裁判で、札幌地裁は2015年6月18日に差止を認める判決を言い渡した。

商標を侵害する側は、商標権者は事実上商標の使用を黙認していたと主張しましたが、フランチャイズを脱退した経緯等から、札幌地裁は侵害する側の言い分を認めませんでした。

(7)商標権侵害事件に巻き込まれない方法は?

商標権侵害事件に巻き込まれないためには

商標権侵害事件に巻き込まれないためには、指定商品や指定役務の範囲で特許庁で登録された登録商標を使用する必要があります。

自分が保有する商標権を専用権の範囲で使用すれば、商標権侵害事件に巻き込まれない理由は次の通りです。

(7-1) 他人の商標権を侵害する商標は登録されないから

他人の商標権を侵害する内容の商標登録出願は特許庁の審査に合格することができません。

このため、特許庁の審査に合格して登録手続により商標権が発生したということは、一応は他人の商標権を侵害しないこということを国が保障したことになるからです。

(7-2) 無効や取消になるまでは専用権の範囲での登録商標の使用は認められているから

商標法第25条に「商標権者は登録商標を独占排他的に使用することができる」、と規定されている通り、法律上、使用が認められています。

ただし特許庁の判断にも誤りがある場合があり、商標登録が無効になったり取り消されたりした後は、登録商標を使えなくなる可能性があります。

(7-3) 商標権を持っていない場合には、後から他人に商標権を取られてしまう場合があります

商標をいくら長く使っても、商標権者になることはできません。商標権者になることができるのは、実際に特許庁に商標登録出願を最初に棲ませた者だけだからです。

このため現在商標権をもっていない場合には、後から商標権を取得した第三者から、こちらの商標の使用が商標法に違反するとして訴えられるリスクがあります。

ただし先に商標権を取っておけば、他人はその商標権を消滅させる手続に成功しない限り、他人が商標権を取得することはできません。

商標登録は先手が勝つ制度ですので、商標権の取得忘れに注意が必要です。

裁判で訴えられた場合は反論することが絶対条件

商標権侵害で訴えられた場合の最悪のケースは、裁判所に出頭せず、相手側の主張に反論しないことです。
もし、裁判所で相手方の主張に反論しなければ、民事裁判の場合は相手方の主張が全て認められてしまいます。

例えば、仮に商標権侵害訴訟を起こされて、損害賠償として1億円が請求されたのに、裁判所に出頭せずそのまま黙殺した場合には、本当に1億円を支払えとの判決が自動的に確定してしまいます。

このため何もしない、という対応が一番高く付くことを忘れないでください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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