商標法違反で逮捕される事例とは?

商標法は、実は道交法、所得税法とならんで社長や経営者が一度は関係する法律の一つです。商標法に違反すると懲役10年以下、罰金1000万円以下、法人の場合なら罰金3億円以下の刑事罰が科せられる場合があります。ではどのような場合に商標法違反と言えるのか、商標権を侵害した場合の逮捕事例等を元に商標権の専門家が説明します。

(1)商標法に違反する場合とは?

事業開始時点では商標法に違反するかどうかが分からない

商売をしていて、一定以上の売上がでてきた段階で問題となるのが商標法です。本当は商売を始める時点で商標法対策をしておくべきなのですが、多くの方は商標法にどのような規定があるかをご存じありません。

ほとんどの場合で、商売の初期段階では商標法が問題になることは比較的少ないからです。

ところが商売がうまくいき、売上が伸びてくるとこちらの活動が目立つようになります。この時になって、はじめて商標法違反で狙い撃ちの攻撃を受けることになります。

商標法違反であると警告を受けた段階になって、「商標権侵害とは何?」と調べ始める方も多いのが実情です。

商標権の範囲と商標権侵害との関係

商標権とは、登録商標を独占排他的に商品や役務の識別標識として使用できる権利です。商標権者だけが商標権の専用権と禁止権の範囲で、登録商標とこれに類似する商標を使用することができます。

商標権の専用権とは、商標権の権利の中心点であり、登録商標について、登録の際に指定されている商品・役務の範囲の独占権のことをいいます。

商標権の禁止権とは、専用権を取り巻く、広がりのある防衛範囲の権利であり、登録商標の類似範囲や、登録の際に指定されている商品・役務の類似範囲まで及ぶ権利です。

図1 商標登録証の記載と商標権との関係

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図2 商標権に対する専用権と禁止権との関係

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上記の図の範囲で商標を無断で使用すると、トラブルが発生します。

商標権者から許可をもらっていない第三者が、上記の商標権の権利範囲内で商標を使用すると、その商標が商標法に違反するかどうかを知っていたかどうかに関係なく、商標権を侵害したことになり、商標法違反で逮捕される可能性があります。

特に注意すべき点は、商標登録証に記載されている商標や指定商品・役務だけが商標権の権利範囲ではない、ということです。
商標権は類似する範囲までカバーしていますので、登録証に直接記載されていない商標や商品・役務の使用が商標権の侵害になる場合があります。

商標権を侵害する条件

業務として商標を使用していること

商標法は事業者を規制する法律です。このため事業とは全く関係がない場合には登録商標を使用しても商標権侵害にはなりません。

ただし個人使用といいながら、ネットオークション等で個人間売買を繰り返している場合には個人事業を実施している場合と変わらないので、商標法違反で逮捕される可能性が残ります。

専用権または禁止権の範囲で商標を使用していること

上記の図1と図2に示した範囲で無断で商標を使用すると、商標権侵害になります。逆に、登録商標とは類似していない商標を使用している場合とか、登録商標に規定されている指定商品や指定役務とは全くの関係のない商品や役務に商標を使用している場合には、原則として商標権侵害の問題は発生しません。

商標権者の許可なく商標を使用していること

商標権者の許可をもらえば、原則として商標法違反の問題は発生しません。

商標法上、商標の使用といえる形で商標を使用していること

商標法上、商標の使用とはいえない場合には商標権の侵害にはならないです。

例えば、友達同士のライン通信で登録商標に言及する場合とか、電話や会話で登録商標についてコメントすること等の行為は商標法に違反しているとはいえず、これらの行為で逮捕されることはありません。

(2)商標法違反で逮捕された実例

(2-1) アイフォーン改造販売容疑で富山の男性逮捕

アップル社のスマートフォンを不正改造させた、いわゆる”脱獄iphone”を販売した富山市の24歳男性が、千葉県警サイバー犯罪対策課により商標法違反容疑で逮捕されました。

非公式アプリを使えるようにプログラムを改変した米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を販売したとして、千葉県警サイバー犯罪対策課などは29日、富山市本郷町、無職、池田大将容疑者(24)を商標法違反容疑で逮捕した。

2016年9月30日 毎日新聞東京朝刊の記事より引用

正規に購入した商品でも、その商品について販売が許されるのは『正規に購入した商品を、購入したそのままの状態で販売する』場合だけです。

お金を払って購入したのだから、後はこちらの自由になるものと考えがちですが、商標法上はそうではありません。無断で購入した商品を改造したり、商標を剥がして販売したりする場合には商標法に違反した容疑で逮捕される場合があります。

商標には、正規の商標が付けられた商品が、信頼できる商品であることを示す品質表示機能とか、正規の商標が付けられた商品が特定の信頼できるメーカーが供給していることを示す出所表示機能などの機能があります。

この商標が持つ機能を殺してしまうような行為は、商標法に違反するものとして商標権侵害になると解釈される場合があります。

上記のアイフォーン改造販売容疑で逮捕された男性の場合は、アップル社の登録商標がもつ商標の機能を害したものとして逮捕されるに至っています。

(2-2) 偽バイアグラ30万錠保管、男ら数人逮捕

有名な薬剤を不正に製造して所持していた男らが商標法違反容疑で逮捕されました。

大阪市内で、性的不能治療薬「バイアグラ」の模造薬を隠し持っていたとして、大阪府警が男ら数人を商標法違反容疑で逮捕し、錠剤約30万錠を押収していたことが、捜査関係者への取材でわかった。

2016年10月11日 読売新聞の記事より引用

実際に商標法に違反する商品を販売した実績がなくても、販売するために所持している場合には逮捕事由になります。このように登録商標の直接使用とはいえないまでも、商標権侵害行為の前段階の行為を間接侵害として商標法に違反する行為とみる規定が商標法にあります。

(2-3) 東京五輪招致ロゴを無断使用した疑い 米国籍の男を逮捕

東京五輪エンブレムは商標権により保護されていて、無断で使用することができません。無断で五輪エンブレムを使用した男が逮捕されました。

2020年東京五輪・パラリンピックの招致ロゴを無断で使ったグッズを販売したとして、警視庁は、米国籍の男を商標法違反(商標権の侵害)容疑で逮捕した。

2016年9月28日 朝日新聞デジタルの記事より引用

東京オリンピックのエンブレム関係は保護が行き届いていて、無断で使用することは許可されていません。

(2-4) 偽の海外ブランド品販売した疑い 男逮捕

偽の海外ブランド品の下着を販売し、偽の海外ブランド品のポーチなど3点を販売目的で所持した疑いで男性が逮捕されています。

埼玉県警生活安全企画課と秩父署は20日、商標法違反(販売譲渡・販売目的所持)の疑いで、会社員の男(35)を逮捕した。

2016年9月20日 埼玉新聞の記事より引用

上述の通り、販売のためにブランド品を所持しているだけでも逮捕の理由になります。

(2-5) 時計用の偽ベルト、販売目的所持で男逮捕(愛知県)

販売目的でニセのブランド品を所持していたとして、商標法違反の疑いにより中国籍の男性が逮捕されています。

偽物の高級時計のベルトを販売目的で所持していたとして、名古屋市昭和区に住む中国籍の男性(26)が、商標法違反の疑いで逮捕された。

2016年10月5日 日テレNEWS24の記事より引用

(2-6) MSロゴを無断使用…商標法違反容疑で、大阪府警、51歳の男を逮捕

マイクロソフトのロゴも無断使用することはできません。無断使用して自営業者が逮捕されています。

大阪府警サイバー犯罪対策課が米マイクロソフト社(MS)のソフト「オフィスプロフェッショナル」のロゴに似たデザインを使ったとして商標法違反の疑いで、大阪市の自営業(51)を逮捕していたことが25日、わかった。

2016年7月25日 産経WESTの記事より引用

(2-7) 名古屋の中国籍女子大生を商標法違反容疑で逮捕

シャネル等の有名ブランド品のニセモノは、もちろん販売することはできません。ニセモノを販売したとして大学生が逮捕されています。

高級ブランド「シャネル」の偽物のバッグを譲渡する目的で所持していたとして、富山県警富山西署などが商標法違反の疑いで、中国籍の大学4年の容疑者(27)を逮捕していたことが31日、分かった。

2016年7月31日 産経WESTの記事より引用

(3)商標法に違反した場合の罰則は?

(3-1) 商標法に違反した場合の罰則の内容

商標権を侵害した者は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処する(商標法第78条)

なお、懲役と罰金については併せて適用される場合があります。

商標権の侵害とみなされる行為をした者は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処する(商標法第78条)

商標権の侵害とみなされる行為とは、商標権侵害の準備行為などに該当する場合です。先に説明した商標権を侵害する物を販売のために所持する行為が該当します。

法人関係者が商標権を侵害した場合には3億円以下の罰金に処する(商標法第82条)

商標権を侵害した者が法人など、組織ぐるみの場合は実行者を処罰するだけでなく、それに加えて法人に対して3億円以下の罰金刑が科せられる場合があります。

(4)まとめ

商標法の規定はブランド保護のためにだんだん厳しくなっています。また警察もブランド保護に本腰を入れていて、盗んだ者がちの空気を一変させようとしています。

今回、iPhone脱獄品を販売した業者を逮捕した警察の姿勢はブランド保護に警察が本気で動いていることを内外に示すことを意図しています。要するに、商標法違反は割に合わないと業界全体に浸透するまで警察の強行姿勢は続くと思われます。

ちなみに商標権者が誰を訴えるかは自由であり、商標法を違反する者を全て訴えなければならないことはありません。このため警察が商標法を違反している者のうち、誰を逮捕するかは事前予測することは困難です。

商標法に違反している他の業者がまだ逮捕されていないので、自分の場合も安心と考えるのは危険です。

他の人が不法駐車しているので自分も不法駐車してもよい、と考えるのと同じで、不法駐車した以上は検挙されるのは時間の問題だからです。

一時的に利益を得ることができたとしても、結局は利益を全部はき出して損だけが残る結果になります。

最後に一番重要な注意事項を述べます。

商標法に違反していることは知らなかった、という弁明は、警察では聞いてくれません。商標法に違反すれば、違反していることを知らなくても逮捕されることはあり得ます。

商標権の侵害は、商標権の存在を知っていたかどうかに関係なく成立する場合があるからです。

プロである以上、本物と偽物の区別がつかなかったという言い訳は、警察の前では通用しないことに注意してください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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