「阪神優勝」が使えないは勘違い!商標無効審判とは?

以前「阪神優勝」との商標が阪神球団とは全く関係がない他人により登録されてしまいました。阪神球団としては「阪神優勝」についての商標権を他人が独占している事態を見逃すわけにはいきません。当然、阪神球団はこの商標登録を不服として、特許庁に登録を無効にすることを求めて、無効審判を請求しました。今回は商標「阪神優勝」の無効審判前後の状況について説明します。

索引

(1)「阪神優勝」の商標登録が注目されたきっかけ

阪神タイガースが18年ぶりのセントラル・リーグ優勝

注目されたきっかけは、阪神タイガースによる18年ぶりのセントラル・リーグ優勝です。

1985年に阪神タイガースが優勝してから18年後の2003年、星野仙一監督が率いる阪神タイガースがセリーグで再び優勝しました。当時阪神が優勝しなければ「阪神優勝」の商標の問題はそれほど大きく取り上げられることはなかったと思います。

ただ、もう阪神が優勝することは当分ないだろう、という空気の中で星野監督率いる阪神タイガースが実際に優勝してしまった。これがこの問題の話題を大きくしました。

実際には阪神タイガースがセリーグ優勝を決める以前に、阪神球団とは全く関係がない千葉県の男性が商標「阪神優勝」について商標登録を済ませていました。後になってこの事実がネット等で広まり、マスコミ等もこの商標「阪神優勝」のことを大きく取り上げました。

他人に「阪神優勝」の商標を取られてしまっているのに、実際に阪神タイガースが優勝するかも、いや優勝しそう、本当に優勝してしまった、という時間の流れの中で段々この問題の話題性は大きくなりました。「阪神優勝」との現実と、赤の他人による「阪神優勝」の商標権とが直接ぶつかる状況が、現実のものとなったからです。

この千葉県の男性は取得した登録商標「阪神優勝」を使用したTシャツ等を販売しました。
この登録商標「阪神優勝」は「被服,履物,おもちゃ等」を指定商品とするものであり、千葉県の男性の登録商標の使用は、国が使用を保証した登録商標の使用に該当するものです。

(2)商標無効審判の行方

(2-1)第三者による商標「阪神優勝」の商標権取得の経緯

阪神球団とは全く関係がない、千葉県の男性が商標「阪神優勝」について商標登録した経緯は次の通りです。

  • 商   標:「阪神優勝(文字の背景に別途マークあり)」
  • 指定商品 :「被服,履物(第25類)」および「運動具(第28類)」等
  • 出 願 日:2001年3月15日
  • 登録査定 :2002年1月11日
  • 登   録:2002年2月8日
  • 登録番号 :商標登録第4543210号

実際に阪神が優勝したのは2003年ですので、阪神が優勝したのを知ってから商標登録をしたのではない、という点が今回の問題の特徴です。阪神が優勝するのを予測して事前に商標登録の手続を行ったというのが事実です。

前回の優勝から18年もの間、阪神タイガースが優勝することはありませんでした。さらに阪神タイガースを優勝に導いた星野仙一監督の就任は2002年に入ってからのことであり、実際の商標登録出願よりも後になります。

阪神球団に関連する商標を、阪神球団とは無関係の第三者がそもそも権利取得のために商標登録出願してよいのか、という道義上の問題があります。

けれども商標登録出願の内容を見る限りは出願して商標権を取得した第三者の行為には、美味しい情報にただ乗りした、という背景はないことが分かります。

そして上記の商標登録の手続の結果、第三者である千葉県の男性は商標「阪神優勝」について、阪神タイガースが実際にセリーグで優勝する前年に商標権を得た結果になっています。

(2-2)阪神球団側は不服として無効審判を請求

プロ野球の阪神球団側は、阪神タイガースと全く無関係の赤の他人による商標登録の無効を求めて特許庁に無効審判の請求を行いました。このまま千葉県の男性による「阪神優勝」とのロゴマーク付きの商品販売を放置していては、阪神球団側が公認していないものが公認グッズと誤認される恐れがあるからです。

商標「阪神優勝」の無効審判についての経緯は次の通りです。

  • 審判請求日:2003年8月29日(阪神球団側攻撃開始)
  • 答弁書提出:2003年10月28日(第三者側反論)
  • 審   決:2003年12月24日(特許庁による無効の判断)
  • 審決確定 :2004年2月17日

特許庁は球団の請求を認め、商標無効の審決がなされました。

阪神が優勝した同じ年に請求した阪神球団側による無効審判により、この第三者による商標登録第4543210号は無効となりました。この結果、第三者による「阪神優勝」についての商標登録は最初からなかったものとみなされました。

審判請求から審決(裁判の場合に例えると「判決」)までの期間は4ヶ月未満であり、特許庁も本件の社会的影響の大きさを十分認識して迅速な審理を行っています。

これは「特許庁はなぜ第三者に阪神優勝の商標登録を認めたのか」という少なくない批判を考慮したものであると私は感じました。

(2-3)「阪神優勝」の商標登録が無効になった根拠

特許庁が一度した商標登録を無効にできる理由は、実は商標法上に規定されています。この規定されている理由以外では「阪神優勝」の商標登録を無効にすることができません。

当然ですが、商標法の規定には「阪神球団以外が阪神タイガースについての商標登録をした場合には、その商標登録を無効にする」、という規定はありません。

ではどうするかというと、既に商標法に規定されている無効理由についての条文を、実際の事例にあてはめて解釈することにより、該当する商標登録を無効にする結論を導き出す手順を取ります。

今回の場合は二つの理由により、阪神優勝の商標登録を無効としました。その理由は次の二つです。

(2-4)「阪神優勝」の商標登録無効の審決理由(その1)

一つ目の「阪神優勝」の商標登録無効理由は、商標の出所について、ある商標を他人の有名な商標と一般需要者が間違ってしまう商標は登録を認めない(商標法第4条第1項第15号)、というものです。

「阪神」は「阪神タイガース」の著名な略称です。

他人の著名な商標と商品の出所を混同させる恐れがある商標は登録しない、という条項を適用したわけです。

仮にこの商標登録を認めたままにすると、商標登録をした第三者が、あたかも阪神球団関係者であるかのように一般需要者が勘違いする可能性がある。だから登録を認めない、という結論になっています。

(2-5)「阪神優勝」の商標登録無効の審決理由(その2)

二つ目の「阪神優勝」の商標登録無効理由は、「阪神優勝」の商標登録を認めると、公序良俗に反する(商標法第4条第1項第7号)、というものです。

公序良俗に反する、というと分かりにくいですが、社会的に許容できるルールの範囲を超えるものは商標登録できない、と理解するとよいと思います。

この条項を適用することにより、仮にこの商標登録を認めたままにすると商道徳上問題があるばかりでなく、公衆を混乱させ、公共の利益を害する虞のあることは明白なので商標登録を認めない、という結論になっています。

ちなみにこの千葉県の男性は、本件とは別に「阪神優勝」についての商標登録出願を特許庁に行っていますが、こちらは審査段階で拒絶査定になっていて、審査不合格で終了しています。

(2-6)商標登録の無効審判とは?

商標登録無効審判

商標登録の行政処分は特許庁が行いますが、特許庁の判断に間違いがある場合もありえます。そもそも審査に合格できないはずの商標が登録されている場合には、本来権利として存在できないものに商標権の行使を認めることになってしまい妥当ではないと考えられます。

この点を是正する目的で、無効審判制度が設けられています。

商標登録が妥当でないと判断できる場合に、商標権を消滅させるための審判手続

無効審判の請求は特許庁に対して行います。無効審判が請求されると、特許庁では審査官ではなく審判官により審理手続が行われます。審判は通常は三名の審判官の合議体により行われ、審査段階で担当した審査官は審理に関与することができません。

この無効審判は、裁判と比較すれば東京地裁の第一審に相当する司法手続に準じたものになります。

基本的に紛争の解決手段として使用

無効審判制度は、商標権侵害を巡る当事者同士の紛争の解決手段の一つとして位置付けられています。商標権侵害で訴えられた側は、そもそも商標権侵害の事実などなかったことを主張できる他、商標権侵害の主張の根拠となる商標権自体を消滅させる対抗策も取ることができます。

この対抗手段の一つが無効審判です。

ただし一度発生した商標権を消滅させる手続であるため、無効審判には特許庁に対する請求の条件が定められています。

「自身と登録された商標との間に利害関係が必要」とされる

無効審判を請求することができる人は利害関係人だけです。このため自身と登録された商標との間に利害関係がない場合には無効審判を請求することができません。仮に請求したとしても、実質的な審理に入ることができず、商標登録を無効にすることができないことになります。

無効と判断できる理由

先に説明しましたが、無効と判断できる理由については商標法で定められています。
一般的な事例の場合は、大きく二つの理由があります。

(A)登録された商標に自他識別能力がない

そもそも商標は、自己の商品と他人の商品等とを識別するための識別標識であることが要求されます。このため誰もが一般的に使う単なる地名、原材料名、品質表示等に該当する商標は、自他識別力がないものとして審査に合格できません。

仮に審査に合格した場合でも自他識別能力がないと判断される登録商標については商標登録が無効になります。

(B)他人の登録商標と同一又は類似

他人の商標権と抵触する内容の登録商標についても商標登録が無効になります。
互いに抵触する内容の商標権が二つ以上存在するとすると、商標権が独占権ではなくなります。そうすると商標登録により商標権者に独占権を与えて商標と一緒になった需要者からの信用を保護しようとする商標法のそもそもの目的と矛盾するからです。

無効審判の効力

無効審判の審決が確定した場合には、原則として商標権は初めから存在しなかったものとして扱われます。また商標法に規定する一定の場合に該当するものについては商標権発生後に無効として扱われる場合もあります。

(2-7)よく似ている登録異議申し立てとの違い

登録異議申立制度は、商標登録が間違っていなかったかどうか、特許庁自らが再度審理をやり直すために設けられた制度であるのに対し、無効審判制度は、当事者同士の商標権侵害を巡る紛争解決手段の一つとして位置付けられる制度である点が異なります。

登録異議申立の場合は、商標登録が間違っていなかったかどうかを特許庁自身が行う制度であるため、登録異議を申し立てた者は審理に関与することができません。

これに対して商標登録無効審判の場合は、当事者同士の紛争解決手段ですから、商標権者も無効審判請求人も双方無効審判の審理に関与することができるため、必要に応じて意見を述べる機会が与えられます。

また登録異議申立は特許庁の判断の間違いの是正のために行われるのですから、特に申立人を限定する理由がありません。このため商標登録無効審判の場合と異なり、登録異議申立の場合は、誰でも申立が可能です。

ただし、登録異議申立は、商標公報発行後、原則として2ヶ月以内に異議を申し立てなければなりませんが、無効審判の場合は登録異議申立ができなくなった後でも請求することができます。

(3)「阪神優勝」は使えない?

(3-1)「阪神優勝」の商標登録を巡る勘違い

当時商標「阪神優勝」の問題が大きく話題になった理由は、この第三者の商標「阪神優勝」の登録により、阪神球団をはじめ、デパート、商店街などや一般需要者までが「阪神優勝」の表記を使えない、と誤解した点にあるのではないでしょうか。

(3-2)多くの人が抱く疑問

「阪神優勝」の言葉を使えなくなる?

商標「阪神優勝」が登録されたと聞けば、多くの人が「阪神優勝」の言葉を使えなくなると感じたのではないでしょうか。

その言葉自体の使用権が独占されてしまう?

商標「阪神優勝」が登録されているなら、「阪神優勝」との表記を使うたびに、事前に商標権者の許可が必要になると感じたのではないでしょうか。

答えはNo

商標登録された言葉は使うことができない、という情報は、実は正確ではありません。
業務以外の日常生活で普通に用いる分には、商標登録されていても使用できます。

ちなみに商標権は、商品表示を巡る業者間の調整を図るために設けられています。このため業務を行っていない個人が日常生活で普通に「阪神優勝」との語句を使うことが規制されることはありません。

例えば、ブログで阪神優勝の内容に言及する記事を書く場合には商標権の侵害にはなりません。

また商標は商品表示等に使用されるものですので、日常の普段の会話で「阪神優勝」に言及する場合にも商標権の侵害にはなりません。

さらには友人間における手紙やメールの文章などで「阪神優勝」との語句を使う場合にも商標権の侵害にはなりません。

いずれの場合も商標法に定める商標の使用には該当しないからです。

(注意*)この話をすると個人なら登録商標を使っても商標権侵害にならない、と拡張解釈する方が出てきますが実際はそうではありません。個人といいながら業務上、他人の登録商標を使用する場合には商標権侵害になる場合があります。個人でも事業を行う場合があるので、個人使用なら大丈夫、というわけではありません。

業務上登録商標を使用する場合であっても、商標登録の際に指定された商品・役務の範囲とは全く関係のない範囲で商標を使用する場合にも商標権侵害にはならないです。

上記の「阪神優勝」の商標登録の場合であれば、被服や運動具等とは全く関係のない範囲についてまでの規制は受けないです。

ですので、言葉としての「阪神優勝」が日常生活で使えなくなる、との心配は必要ありません。商標権に関係のある範囲で業務上使用する場合に規制の対象になる場合がある、ということです。

実際にどの範囲が規制の対象となるかについては、各登録商標ごとに専門家とよく相談する必要があります。

(3-3)商標を独占的に使用できる場合

商標を独占的に使用できる場合は、無断使用している第三者の使用が、登録商標と関係する範囲(同一か類似の範囲、という意味です)内で、登録の際に指定している商品・役務と関係する範囲内である、という制約があります。

このため商標登録されている指定商品や指定役務以外の使用、つまり指定商品や指定役務と関係のない商品や役務について使用する行為までは商標権の効力は及ばないです。

(3-4)言葉や記号だけではなく、商品又はサービスも指定しなければいけない

問題となった「阪神優勝」の文字とその文字に付随して併記されているマークだけを登録するのではなく、その商標を何の業務に使用するかを併せて記載して商標登録を受ける必要があります。

商標登録の際に指定した商品や役務の範囲についても商標権の権利範囲を定める重要な判断基準になる、ということです。

商標登録の問題を検討する際には指定商品や指定役務の範囲が関係する、という基本を押さえてください。そうでないと、生じる問題が実際に生じている範囲を超えて大きくなりすぎてしまいます。

(3-5)商標権侵害の具体例

(A)Tシャツに「阪神優勝」を付けた場合

このケースの場合、Tシャツのタグ等に「阪神優勝」を付けた場合に侵害になります。

(B)他の例

仮に、商標「阪神優勝」でお酒のみを指定商品とする商標権だけが存在する場合には、お酒の商標として「阪神優勝」を使用したとすると、商標権の侵害になります。

この場合、お酒とは関係のない商品について使用する場合、商標権の効力はそこまでは効力は及ばないことになります。
例えば、自転車、タオルなど販売する場合は、お酒を指定商品とする商標権の効力の制限を受けないです。

(4)商標「阪神優勝」が残したもの

上記の通り今回説明したケースの場合、第三者による「阪神優勝」の商標登録は無効になったため、現在では問題となった「阪神優勝」の商標権は消えてなくなっています。

(4-1)なぜ審査官は「阪神優勝」の商標登録を一度は認めたのか

最初の疑問は、なぜ特許庁の審査官は「阪神優勝」の商標を審査で不合格にしなかったのか、ということです。

以前にこのブログでも述べましたが、その理由の一つは、特許庁の審査官が「阪神が優勝することはまずないので、阪神優勝を商標登録したとしても実害はないだろう」、と考えたのではないだろうか、ということです。

前回1985年に阪神タイガースが優勝してから既に18年、それほどの時間が経過しても優勝できなかったのですからそのように審査官が考えたのではないか、と私は考えてしまうのです。

他の阪神ファンの誤解を解くために念のためにいっておきますが、私は筋金入りの阪神タイガースファンです。

ちなみに私の母親は亡くなる直前、私からの最後の「何(なん)か欲しもんある?欲しいもんがあれば何でも買(こ)うてきたるで。」との提案に対して、

「・・・阪神タイガースの選手の写真の載った本が欲しい。」と答えました。

阪神タイガースファンは日本中に星の数ほどいるでしょうが、この世を去る死期を覚悟した段階で、最後に欲しいものは何かを問われた際に「阪神タイガースの選手の写真集」と答えるディープなタイガースファンは、おそらくこのブログを読んでいるあなたのそばにはいないでしょう。

というか、そんなファンは日本中のどこを探してもいないのではないか、と私は今でも思っています。

それくらい、家族ぐるみで阪神タイガースファンであったわけです。

私が幼少の頃から私の母親は阪神タイガース戦以外に私に野球中継を見せようとしませんでしたので、私が阪神タイガースファンになったのは当然であったかも知れません。

(4-2)他人の商標に乗ろうとするのはお金と手間の無駄

私が野球の阪神タイガースファンであることを割り引いたとしても、商標「阪神優勝」を見て、あの阪神タイガースが野球で優勝するシーンを想い浮かべない人はいないのではないでしょうか。

自分自身が有名にしたものでない商標を仮に商標登録できたとしても、今回の商標「阪神優勝」の場合と同じく、結局は無効にされてしまい、商標権自体が消えてなくなってしまうことになります。

仮に他人の有名な商標で一儲けしようと考えたとしても、それほど世の中は甘くはない、ということです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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