今回は実際に裁判で争われた事例を題材に、商標権を巡るトラブルについて解説したいと思います(当事者を特定できないように事案に変更を加えています)。
美容院を営んでいる太郎さんのところで働いていた次郎さんが独立したい、と東京太郎さんに相談しました。
太郎さんは次郎さんに口頭で独立しても構わない、との旨を伝えました。
また登録商標である店の名前を使用しても構わない、といいました。
今後当事者同士の争いが生じると困りますから、次郎さんは今回の独立で後で争いが生じないように、お互い今回のことで争わないとする念書をとりました。
ただし、この念書には登録商標の使用の許可、つまりライセンス契約を解除できる条件については一切記載がありませんでした。
同じ登録商標を使用していた次郎さんは、その後、犯罪事件に巻き込まれ警察に逮捕されてしまいます。裁判で有罪の判決も受けてしまいます。
この場合、太郎さんは次郎さんに許諾した登録商標のライセンス契約を太郎さん側から一方的に解除することができるのでしょうか。
道義的、抽象的には次郎さんは登録商標の価値を失墜させないように努力することが求められます。
けれどもこの義務に仮に違反したとしても、ただちにライセンス契約を解除されるような具体的な信義則上の義務を次郎さんが負っていると直ちに解釈されるとは限りません。
実際の裁判では、次郎さんは逮捕されて有罪となったにも関わらず、ライセンス契約の解除は認められませんでした。
将来トラブルが生じた場合に商標権の扱いをどうするのか、やはりきちんと契約書に記載しておく必要があります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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