商標の早期審査制度のメリット・デメリット!注意すべきポイントとは?

早期審査を利用すれば、通常4〜6か月かかる商標登録の審査期間が、2か月程度に短縮されます。このため多くの方が高い関心を示しますが、注意すべき点が多々ある制度です。他に商標登録出願の申請をした人よりも先に審査を先に進めてもらうためにはそれなりの制限事項もあります。ここでは早期審査に対する誤解を避けるため、商標専門のプロフェッショナルが詳細に説明しました。

(1)早期審査とは?

内容

商標登録の早期審査とは、平成9年に開始された制度です。

一定の要件の下、商標登録についての出願人からの要請を受けて審査・審理を通常に比べて早く行う制度が早期審査制度です。

特許庁で早期審査の申請が認められると、通常5ヶ月前後必要とされている商標登録出願の審査期間が、2ヶ月前後に短縮されます。

現在の商標登録の期間

現在、一年間に10万件以上の商標登録出願が特許庁に対してされています。この10万件以上の商標登録出願の審査を、東京虎ノ門に一カ所あるだけの特許庁で、一つ残らず全部の審査を行っています。

今日、特許庁に商標登録出願の願書を提出したとしても、現時点で特許庁には5万件前後の審査に着手していない案件が積み上がっています。これらの山積みされた先行する5万件前後の出願審査が完了しないと、こちらの審査の順番が回ってきません。

山積みされた先行する5万件前後の商標登録出願の処理には現在5ヶ月前後がかかっています。

出願された商標を審査に合格させてもよいかどうかについて審査官は悩んでいるわけではありません。特許庁内部では毎日大量の出願審査処理がなされています。それでも年間10万件以上という凄い量の出願がなされているため一定期間を要することになります。

背景

商標登録の審査に5ヶ月前後の期間が必要とされるといっても、商標の早期保護という社会的ニーズが存在しています。

商標を表示した商品や役務の提供を、実際の商標登録出願よりも先行させた場合、特許庁の審査結果により最終的に現在使っている商標が使えなくなることが後から判明する場合があります。

商標を使用する側からすれば、商標が後から使えなくなるリスクはできるだけ減らしたいと考えますから、特許庁の商標の審査を急いで欲しいという要望は絶えずあります。

最終的に商標権が得られなければ、商標法による商標の保護は何も得られません。商標を早く使いたい、こちらの商標が実際に悪徳業者に侵害されていて、早く現状を打開したい等のそれぞれの事情も存在します。

この社会的ニーズに応える形で、商標登録の審査が遅れた場合に、実際にビジネスに支障の出る申請者を保護する目的で早期審査制度が導入されました。

ただし、実際に早期審査を受けることができるのは、実際の販売が間近に迫っていることを、客観的に証明できる場合等に限られます。

商標登録出願する人は、誰もが早く審査してもらいたいと考えているのは同じです。こちらよりも先に出願をした人たちを追い越してでも、先に審査を急いでもらう必要がある証拠を、特許庁に対して示す必要があります。

早期審査を特許庁に認めてもらうために必要な証拠の具体例

早期審査をしてもらいたい、というだけでは特許庁は早期審査をしてくれません。早期審査を特許庁に認めてもらうために必要な実際の販売が間近に迫っていることを、客観的に証明できる場合としては、例えば次のものが挙げられます。

  • 商標の記載されたカタログが、既に数千部刷り上がっている
  • 商標を表示した容器等の、試作品が出来上がっている
  • Webサイトに、商標を表示した商品の写真がある

代表的な例を3つほど挙げましたが、3番の写真のような場合は、画像ソフトで加工できてしまうので、早期審査が認められない場合も多いです。

早期審査のメリット

スピードの速さ

早期審査のメリットは、何といっても審査スピードの速さにあります。通常の審査であれば審査結果が返ってくるのが4〜6ヶ月であるのに対し、早期審査の場合は、平均約1.9か月で審査結果が返ってきます。

このように早期審査制度を利用すれば、審査期間が大幅に短縮されます。

審査段階だけでなく審判段階でも適用されます

早期審査は、審査段階だけではなく、審査で登録が認められず、その審査結果を不服とする拒絶査定不服審判の段階でも請求することができます。

拒絶査定不服審判の場合は通常は1年前後の審理期間を要しますが、早期審査が認められた場合には数ヶ月程度という速いスピードで審決が得られる場合があります。

(2)早期審査の対象となるのは?

早期審査の対象となるのは次の項目に当てはまる場合です。

(2-1) 「事業準備が相当進み」、かつ「権利化に緊急性」がある出願

早期審査が認められるためには、「事業準備が相当進み」と「権利化に緊急性」との両方の条件を満たす必要があります。

事業準備が相当進んでいる出願とは?

早期審査が認められる条件として、事業準備が相当進んでいる出願である認められるためには、出願した指定商品・役務について商標を既に使用していることを前提に、次のいずれかの証拠を提出できる出願であることが求められます。

  • 商標が付された商品が掲載されたパンフレット、カタログ等の印刷についてその受発注を示す資料
  • 商標が付された商品が掲載された広告についてその受発注を示す資料
  • 商標が付された商品の販売に関するプレス発表や新聞記事等の資料
  • 商標が付された役務の提供の用に供する物の受発注を示す資料
  • 商標が掲載された役務に関するパンフレット、カタログ等の印刷についてその受発注を示す資料
  • 商標が掲載された役務に関する広告についてその受発注を示す資料
  • 商標が掲載された役務の提供に関するプレス発表や新聞記事等の資料

早期審査を請求するなら、これらの資料を提出できることが必要になります。

権利化に緊急性がある出願とは?

権利化に緊急性がある出願として認められるための条件は次の通りです。

  • こちらの許可なしに無断で第三者がこちらの商標出願の内容に抵触する範囲で使用していることが明らかな場合
  • こちらの許可なしに無断で第三者がこちらの商標出願の内容に抵触する範囲で今、まさに使用しようとしていることが明らかな場合
  • 出願内容の商標の使用について、第三者から警告を受けている場合
  • 出願商標について、第三者から使用許諾を求められている場合
  • 出願商標について、出願人が日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している場合

権利化に緊急性があると特許庁で判断された場合には、出願した指定商品・役務の一部について商標を既に使用していることが認定された場合には、出願内容の全部の指定商品・役務について商標を使用していることまでは要求されません。

上記の条件が特許庁で認定されると早期審査が開始されます。

(2-2) 「事業準備が相当進み」、かつ「事業準備が相当進んでいる商品等だけを指定」している出願

一見、分かりにくい条件ですね。

つまるところ、事業準備が相当進んでいることを証明できない指定商品や指定役務は権利範囲から削除しなさい、ということです。

上記に説明したパンフレット等の資料で証明できる指定商品や指定役務だけについて、早期審査が認められることになります。

(2-3) その他の条件

新しいタイプの商標(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標。以下同じ。)については早期審査の対象になりません。

通常の商標と異なり、その審査・審理の特殊性から審査・審理の質を確保するために早期審査の対象外です。

商標出願について早期審査の申請ができる対象者

早期審査について

商標出願についての早期審査を申請できるのは、商標登録出願の出願人またはその代理人です。

早期審理について

商標登録出願の審判段階における早期審理を申請できるのは、商標登録出願の審判請求人またはその代理人です。

(3)早期審査の手続き

商標登録出願に対する早期審査の請求は、まず商標登録出願をすることが先決です。出願内容を特定できないと、特許庁も早期審査に着手することができないからです。

手続きの流れ

「早期審査に関する事情説明書」を提出

早期審査を受ける場合には、商標登録出願について所定事項を記載した早期審査に関する事情説明書を提出する必要があります。

なお、「早期審査に関する事情説明書」では早期審査を受ける要件について説明しきれていない場合には、「早期審査に関する事情説明補充書」での内容補充も可能です。

ただし、「早期審査に関する事情説明補充書」は、「早期審査の対象としない」旨を記載した「早期審査非選定通知書」が出願人に郵送された後は提出できません。

選定

早期審査の対象とするかどうかの検討が特許庁で行われます。早期審査の対象とならなかった場合にのみ、「早期審査の対象としない」旨を記載した「早期審査非選定通知書」が郵送されてきます。

早期審査の対象にならなかった場合には通常の審査に移行するだけであり、出願自体が認められないとか、審査されない、ということはありません。早期審査を請求しなかった状態に戻るだけです。

早期審査の対象となった案件は、審査官が速やかに審査を開始します。遅滞なく処分が終了するように審査手続が進められます。

(4)早期審査の注意点

早期審査の高額請求には、要注意!

商標登録の審査は、ふつう4〜6ヶ月程度かかります。これに対して早期審査を特許庁が認めると、審査期間は2ヶ月程度にまで短縮されます。この様に早期審査は非常に便利な制度で、依頼者の方は必ず高い関心を示します。

ところが、依頼者の関心が高いのを良いことに、制度の意味を十分に説明しないまま、高額の特別費用を請求している場合が後を絶ちません。

「平野先生、実は早期審査で12万円追加請求されたのですが、これ位かかるものなのでしょうか?」

「平野先生、早期審査なら2か月で済むと思ったのですが、また申請をやり直さないといけないと言われました。どういうことなのでしょうか?」

必ずしも弁理士ではなく、無資格者が行っている場合かもしれませんが、現実にこういうご相談を頂くわけです。

多くの方が高い関心を持つ早期審査制度なので、ここでどういう制度なのか、何に注意すべきなのか、シッカリご説明しますから、必ず最後までお読みください。

早期審査で、絶対にチェックすべきこと!

早期審査を利用する上で、依頼者の方が絶対にチェックすべきことは、対象品目の範囲です。

仮にあなたが、化粧品、歯磨き、シャンプーという3品目について、同じ商標を登録するとします。ところがカタログ(審査が遅れることによりビジネスに支障が出ると判断できる証拠)が出来ているのは、シャンプーだけです。その他の化粧品や歯磨きは、何も準備できていません。こういう状況だとします。

この場合、早期審査で取得できる商標はシャンプーのみで、化粧品や歯磨きは取得できません。要するに販売間近であることを、客観的に証明できた品目のみ、商標登録できるということです。

これを通常審査と対比して説明したのが、下図になります。

  • 通常審査: 準備の程度を問わず、全ての品目を商標登録できます
  • 早期審査: 準備できている品目のみ、商標登録できます

業者が早期審査で儲かるカラクリ

つまり早期審査を請求すると、権利範囲が早期審査が認められる赤色の部分と、早期審査が認められない黄色の部分に分かれることになります。早期審査が認められない権利範囲は、再度同じ料金を払って商標登録を出願し直す必要があるのです。

通常審査なら一回の手続きで商標権を取得できたのに、早期審査を請求すると同じ商標権を取得するのに、二回の申請手続きが必要になります。

これを申請代行する側から見れば、早期審査なら通常審査の2倍の手数料を請求できることになります。このため、十分な説明をしないまま、早期審査を勧める業者がいるわけです。

(5)早期審査で誤解されやすいポイント

1.早期審査だからと言って、審査に通りやすい訳ではありません!

早期審査制度は、審査の順番を繰り上げて審査期間を短くする制度です。期間が短くなるだけで、審査が通りやすくなる訳ではありません。

このため業者に早期審査の特別費用を払ったとしても、電車の特急料金のように、早く目的地に着くとは限りません。審査が甘くなるわけではありませんから、審査に通らない場合もあります。

2.早期審査でも先願主義は覆りません

互いに抵触する内容の商標が出願されている場合、審査に合格するのは審査が早く進んだ方でなく、先に特許庁に出願した方です。

つまり早期審査によって審査の順番が繰り上がり、先に審査されたとしても、抵触する内容の商標が先に出願されていれば、商標は認められません。

また早期審査申請前の直近に他人が衝突する内容の出願を完了しているかも知れません。

商標登録データベースへの情報の登録にはタイムラグがありますから他人の直近の出願を検知できない場合もあります。この点において、早期審査はある意味で、運を天に任せる要素があることも知っておいてください。

(6)スーパー早期審査とは?

スーパー早期審査とは?

誤解し易いですが、スーパー早期審査は、特許出願についてみとめられる制度であり、商標登録出願については適用がありません。

特許出願であれば、スーパー早期審査制度を利用することにより、早期審査よりもさらに早く審査を受けることができます。

スーパー早期審査の対象となる特許出願

「実施関連特許出願」であり、かつ「外国関連特許出願」であることが条件になります。スーパー早期審査の申請前4週間以降になされた、全ての手続をオンライン手続とする特許出願であることも条件です。

このため書類をオンライン以外の方法で提出した場合には、特許出願であったとしてもスーパー早期審査を受けることができません。

(7)早期審査まとめ

早期審査を請求しても先に出願した人を追い越して審査に合格できるわけではありません。また早期審査を請求すれば最終的に費用が増大してしまう可能性が大きいです。

全ての事情を理解した上で早期審査制度を利用するのは問題ありませんが、業者の勧めに従って、手拍子で早期審査を請求しないように注意してください。

早期審査に不明点があれば、無料でご相談に応じています

特許庁は早期審査ガイドラインを定めていて、このガイドラインに合致する場合に、早期審査の対象となります。このためガイドラインに合致するかどうか、事前にチェックすることが大切です。

ファーイーストでは、早期審査が可能かどうか、無料相談を実施しています。ご不明点があれば、遠慮なくお問合せ下さい。

03-6667-0247

ファーイースト国際特許事務所

平野泰弘所長弁理士

(8)ご参考

特許庁のガイドライン: 早期審査の対象となる商標登録出願

(1)早期審査の対象となるためには出願人又はライセンシーが、出願商標を指定商品・指定役務に既に使用している又は使用の準備を相当程度進めていて、かつ、権利化について緊急性を要する出願であることが必要です。

  • 「出願人又はライセンシーが、出願商標を指定商品・指定役務に既に使用している又は使用の準備を相当程度進めている出願」であること
  • 「権利化について緊急性を要する出願」であること

「権利化について緊急性を要する出願」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。

  • a)第三者が許諾なく、出願商標又は出願商標に類似する商標を出願人若しくはライセンシーの使用若しくは使用の準備に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用しているか又は使用の準備を相当程度進めていることが明らかな場合
  • b) 出願商標の使用について、第三者から警告を受けている場合
  • c) 出願商標について、第三者から使用許諾を求められている場合
  • d) 出願商標について、出願人が日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している場合

(2)出願人又はライセンシーが、出願商標を既に使用している商品・役務又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務のみを指定している出願であること

願書に記載する指定商品・指定役務は、商標の使用状況等の証明がなされる範囲の商品・役務としなければなりません。

指定商品・指定役務の記載中に、提出された証拠書類により出願商標の使用等が確認できない商品・役務が含まれている場合には、早期審査の対象として認められません。

指定商品・指定役務の記載中に、証拠書類により出願商標の使用等が確認できない商品・役務が含まれている場合には、早期審査の申出以前(同時でも構いません)に、その商品・役務を削除する補正が必要となります。

(9)特許の早期審査と商標の早期審査の違いとは?

間違えやすいのですが、特許出願の場合に認められる早期審査の条件と、商標登録出願の場合に認められる早期審査の条件は異なります。

(9-1) 特許出願の場合の早期審査の対象となる出願について

以下の説明は、「特許出願(アイデアの権利)」について早期審査の適用を受けることのできる場合の条件です。「商標登録出願(名前の権利)」の場合とは異なりますので注意してください。

[1] 実施関連特許出願【商標にも適用あり】

出願人や実施許諾を受けた者が、その発明を実施または実施の予定がある場合に、特許出願について早期審査が認められます。

また特許法施行令第三条に定める処分(農薬取締法における登録、薬事法における承認)を受けるために必要な手続(委託圃場試験依頼書、治験計画届書の提出等)を行っている場合等がこの条件に該当します。

[2] 外国関連特許出願【商標にも適用あり】

同じ発明を外国にも出願している場合は、早期審査が認められます。

[3] 中小企業、個人、大学、公的研究機関等の特許出願

小規模事業者や教育機関関連の特許出願について、早期審査を受けることができます。

[4] グリーン関連特許出願

省エネ、CO2の削減を目的とする発明について、早期審査を受けることができます。

[5] 震災復興支援関連特許出願【商標にも適用あり】

震災復興支援に関する特許出願に早期審査の適用があります。災害救助法(昭和 22 年法律第 118 号)の適用される地域が対象です。

震災により被災したこと、出願発明が、当該事業所等の事業としてなされた発明または実施される発明であれば早期審査の対象となります。

[6] アジア拠点化推進法関連特許出願

アジア拠点化推進法に該当する特許出願についても早期審査の対象となります。

特許出願について早期審査の申請ができる対象者

早期審査について

特許出願についての早期審査を申請できるのは、特許出願の出願人またはその代理人です。

早期審理について

特許出願の審判段階における早期審理を申請できるのは、特許出願の審判請求人またはその代理人です。

特許出願について早期審査の対象にできない事例

上記の6つの種類に該当しない場合

上記の6つの種類に該当しない場合は早期審査をが認められません。請求しても早期審査が認められない結果に終わります。

先行技術の開示・対比説明が十分でない場合

特許出願に対する早期審査の請求に伴う説明書で、先行技術の開示・対比説明が十分でない場合は早期審査が認められません。特許出願に記載された発明に対する先行技術を調査して、その調査で見つけた先行技術について出願人の発明との対比説明が必要です。

特許出願について早期審査が認められない場合は次の通りです。

  • 先行技術文献の提示のみで出願された発明との対比説明がない
  • 先行技術文献の技術的内容が記載されているだけ
  • 先行技術の開示の欄に記載がない

中小企業の場合

特許出願の早期審査については、中小企業・個人の場合は手続きが簡単です。調査をしなくとも、自身が知っている文献を記載すれば良いとされています。

出願時の明細書に先行技術文献が記載されて、十分な対比説明がされている場合には、先行技術文献に関する記載を簡略化してもOKとされます。

(9-2) 商標登録出願の場合の早期審査の対象となる出願について

商標登録出願に対して早期審査が認められる場合と、特許出願に対して早期審査が認められる場合との関係を図により説明しますと、次の通りです。

表1 商標登録出願と特許出願との早期審査の違い

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実施関連出願、外国関連出願および震災復興支援関連出願については商標登録出願についても早期審査の対象になります。

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