植物を商標として保護するには?商標法と種苗法について

街を歩いていると、街路樹や公園、花壇に並ぶ花など、植物を目にする機会は意外と多くあります。また、食卓には野菜や果物、それらの加工品が並び、私たちの生活と植物は切り離せないものになっています。実は植物に関しても商標登録で保護することが可能です。ここでは植物と商標の関係について説明していきます。

(1)植物に関する権利を保護するには?

(1−1)商標法による保護

商標法では、植物に関係する商品や役務を指定して保護します。

商標登録の際には、その商標に関係する商品や役務を区分として選択する必要があります。
その際、主に指定されるのは、第31類「加工していない陸産物、生きている動植物および飼料」です。
この区分には、球根や苗および種まき用の種子などが含まれています。

実際に登録されている商標をみてみましょう。

盛岡りんご(商標登録 第5295475号)


特許庁公開の特許情報プラットフォームより引用

権利者は、盛岡市です。

区分は以下の通りです。

  • 第31類「岩手県盛岡市産のりんご、岩手県盛岡市産りんごの苗木、岩手県盛岡市産りんごの花、岩手県盛岡市産りんごの盆栽、岩手県盛岡市産りんごの花輪」

そのほかの指定商品・役務

また、植物を商標登録する際に、ほかに選択される可能性のある区分は以下の通りです。

  • 第29類「動物性の食品および加工した野菜その他の食用園芸作物」
  • 第39類「輸送、こん包および保管並びに旅行の手配」
  • 第44類「医療、動物の治療、人または動物に関する衛生および美容並びに農業、園芸または林業に係る役務」

上記の第39類は農作物の輸送を含むため、選ばれる可能性があります。

(1−2)種苗法による保護

そのほか、植物を保護する法律としては、種苗法が挙げられます。

種苗法とは農産種苗法を改正した法律で、新品種をつくり出した育成者の権利を守るものです。
新たな品種を生み出すためには、専門的な知識や技術はもちろん、多大な時間や労力を必要とします。

けれどようやくできた新品種が関係のない他者によって、簡単に生産されることも少なくありません。
そのため、育成者の権利を守る手段が必要となります。

育成者権について

種苗法に基づいた品種登録制度で新品種を登録すると、育成者権が発生します。
育成者権は知的財産権の1つであり、開発した新品種の利用を独占できる権利です。

これにより、種苗を無断で生産された際などは、差止や損害賠償を請求でき、育成者の権利を守ることができます。

(1−3)同じ名称では登録できません

商標法に基づいた商標登録と、種苗法に基づいた品種登録の間には、植物の品種の名称についての規定があります。

すでにどちらかで登録されている名称を使用することはできないのです。

つまり、商標登録を目指すものが品種登録された種苗と同じか類似している場合は、その商品や役務での登録はできません。

また、品種登録をする種苗も、登録商標と同じか類似している場合は登録できず、名称変更の必要があります。

これらについては、商標登録を出願する人と育成者権を保持する人が同一でも拒絶されるため、注意が必要です。

(2)商標登録と品種登録の違いについて

商標登録と品種登録は、どちらも登録制であることや先願主義を採用していることなど共通点もありますが、以下のように大きく異なる点があります。

(2−1)出願から登録にかかる時間

商標登録の場合

商標登録は、特許庁に出願します。
現在、年間10万件以上が出願されており、これを特許庁の商標審査官が順番に審査していきます。
そのため、出願から登録までは約半年ほどかかります。

品種登録の場合

品種登録は、農林水産省に出願します。
その後、植物の特性を調べるため審査に長い時間が必要となります。
およそ2〜3年ほどが目安ですが、種類によってはさらにかかる場合もあります。

(2−2)権利の保護期間の違い

商標登録の場合

商標法では、商標権の存続期間は登録した日から10年となっています。
これは何度でも更新が可能なため、永続的にその権利を保持できます。

品種登録の場合

種苗法では、育成者権の存続期間は、登録日から25年(もしくは30年)となっています。
存続期間が30年の対象となるものは、木本性植物(果樹、林木、観賞樹など)です。そして、それ以外の植物が25年となります。
この期間が過ぎると育成者権は消滅します。

(3)登録制度の違いを利用した戦略とトラブル

(3−1)権利の保護期間の違いを活用

品種登録をすると育成者権が発生し、植物の生産から販売まで幅広く保護することができます。
しかし、育成者権は登録日から25年(もしくは30年)で消滅し、その後、登録品種は誰にでも利用可能になります。

そのため、登録品種が大量に出回り、品質にばらつきが生まれることは否めません。そのような状況では、これまで築いてきた登録品種の価値やブランドは低下してしまいます。

こういった状況を避けるため、登録品種の名称を商標として登録し、他者に利用できなくするのです。

上記(2−2)で述べたように商標権は何度でも更新できるため、権利をもち続けることが可能です。
そのため、新品種を生み出した人が、登録品種の権利を永続的に独占できます。

実際にこの戦略を用いて、地域のブランドや自身の権利を守る人も出てきています。

(3−2)登録までの時間差を悪用したトラブル

一方で、制度の違いを悪用されると、思いも寄らないトラブルに巻き込まれることになります。

上記(2−1)で述べたように、商標登録と品種登録では出願から登録にかかる時間が異なります。

また、商標登録は実際に商品がない段階でも出願・登録ができますが、品種登録は新品種が開発された後でなければ手続できません。

そのため、品種登録の出願手続が完了する前に、新品種の情報を手に入れた他者が、先に商標登録してしまうことも可能です。

このような状況を避けるためには、品種登録の出願手続が終わるまで対外的に公表しないことが重要です。

もし、新種の開発中であることを周知しなければならない場合には、仮の名称を使うなど細心の注意を払うようにしましょう。

(4)まとめ

一見、縁遠く思える植物の商標登録と品種登録ですが、その関係は少し入り組んでいます。
けれどその仕組みを知ることで、有効に活用することもトラブルを未然に防ぐことも可能です。
ぜひ、あなたの権利を守るため、商標登録に関する知識を深めていってください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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