禁止権を広げられる防護標章とはなんですか?

「商標登録」は知っていても、「防護標章」というのはあまり馴染みがないかもしれません。それでも、生活にかかわっている著名な企業の商標は防護標章であることが多くなっています。防護標章登録は、商標登録よりも広域に保護されます。しかしそのぶん、審査基準は厳しくなっています。それでは理解を深めて、登録に挑戦してみましょう。

(1)防護標章とはどういったものですか?

(1-1)防護標章について知りましょう

多くの人が知っている企業は、登録商標に加えて防護標章を取得しています。そんな有名企業が取得する防護標章とは何でしょうか。

そもそも防護標章とは

防護標章は防護標章制度により登録されている標章です。

この制度は、「使用の有無にかかわらず著名な標章を保護する」ものです。ここでいう「著名」とは、周知の程度が高く、日本全国に知れわたっていることを示します。

商標登録との違いはどこでしょう

防護標章制度は、著名な標章を保護する制度なので商標登録されていることが前提です。では商標登録とはどのような違いがあるのでしょうか。

  1. 指定商品と役務
    商標登録は実際に使用中(もしくは使用予定)の商品・役務でなければ申請できません。また商標が、その商品・役務の範囲で使用されていない場合は不使用取消審判(注1)などで取り消される可能性があります。

    そのため、商標登録は使用しない商品・役務の区分ではとらないことが原則です。しかし、著名な商標では指定商品と非類似の商品などについて、他人が同じ商標を使用し、混同を生じるおそれがあります。そのような場合のために、防護標章として登録し保護します。

  2. (注1)不使用取消審判…過去3年間、日本で登録商標が指定商品・役務で使用されていない場合は取消審判の対象となります。

  3. 著名な商標であるか
    商標登録は商標法の要件(一般的名称でない、先行登録商標がないなど)に当てはまれば登録できます。

    しかし、防護標章制度を利用するためには著名な登録商標でなければなりません。著名とは、周知の程度が高いことをいいます。したがって、一般的には、全国的に認識されていることが必要ですが、大半の指定商品・役務の取引者、消費者に知られていれば足ります。

    つまり、商標登録できる商標と防護標章登録できるものは、指定商品・役務の範囲での著名度の違いによります。

防護標章制度がある理由とは

登録商標の商品・役務の類似範囲は一様に決まっています。しかし、出所の混同を生じる範囲はその著名度などにより変化するものであるため、類似範囲を超えて出所の混同を生ずる場合があります。そのようなことが起きるのを防ぐためにこの制度はあります。

また、著名商標は商標法のほかに不正競争防止法によっても保護されていますが、過去の時点では著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)には刑事罰の適用はありませんでした(ただしその後の平成17年法改正により刑事罰が後日導入されています。)。

そのため、保護が不十分であるということで、現行の商標法(昭和34年)で商標権の禁止権の範囲を非類似の商品・役務にまで拡大する防護標章制度を取り入れ、著名登録商標に係る商標権者の業務上の信用を保護することにしました(平成8年改正の商標法においてもこの制度は存続させることとなりました)。

禁止権の範囲はどこまで?

防護標章制度は、著名標章を効果的に保護するために、その禁止権を拡大させるためのものです。これにより、同一の標章を他人が使用することを指定商品・役務の枠を超えて禁止できます。

例えば、著名な電化製品「A」と同じ商標の「A」という飲食店ができたら、需要者は「あの電気製品Aを売っている会社は飲食店を始めたのか」と思ってしまうでしょう。

このようなことを防ぐために、著名な標章は非類似の商品・役務までに禁止権がおよぶ防護標章登録ができるのです。

防護標章は禁止権を規定するものであり、使用するものではないため、「商標」ではなく「標章」となっています。

「標章」は文字・図形・記号・立体的形状もしくは色彩またはこれらの結合、音のことで、「商標」は標章のうち商品や役務が決められ、商売の際に使用するものです。

(1-2)防護標章のメリット・デメリット

メリット

  1. 防護標章登録を受けることにより、出所混同のおそれのある非類似の商品・役務についてまで、他人の使用や商標登録を排除することができます。
  2. 「著名な標章」として公開されることになるため、第三者が使用をためらうことにつながります。よって第三者による侵害の予防策にもなります。
  3. 特許庁が「著名な標章」と認めたことになり、他社へのアピールができます。

デメリット

防護標章の権利の範囲はその標章と同一のものに限られ、一般の商標のように、類似の商標まで禁止することができません。

(2)防護標章を出願するには?

メリットが多くある防護標章の出願にあなたも挑戦してみませんか。

(2-1)出願の流れはどうなっているでしょう

出願手続きの流れ

防護標章に登録するためには、「防護標章登録願」という書類を特許庁に提出することになります。そこで、上記の審査基準に満たしていれば、防護標章として権利が発生します。

特許庁のHPには、願書の様式や注意すべき点について、記載されています。

   特許庁 「出願の手続」から(第五章「商標登録出願の手続」)
   https://www.jpo.go.jp/shiryou/ kijun/kijun2/pdf/syutugan_tetuzuki/05_01.pdf

ただすべてを網羅していますので分量も多く、少し難しく感じるかもしれません。そのため、願書のいくつかの項目について簡単にご説明します。

〈1〉【特許印紙】

特許印紙は用紙の左上に貼り、その下には金額を記入してください。

〈2〉【書類名】

「防護標章登録願」としてください。

〈3〉【整理番号】

申請者が管理するための番号なので不要であればつけなくても問題ありません。つける場合は10文字以内で、全角のローマ字(大文字のみ)、数字、ハイフンを使用し考えてください。

〈4〉【提出日】

特許庁に直接提出する場合は持参日を、郵送する場合は投函日を記入してください。

〈5〉【あて先】

「特許庁長官 殿 」としてください。

〈6〉【防護標章登録を受けようとする商標】

防護標章の見本になります。記載欄の大きさは8センチメートル平方です。ただし必要な場合は15センチメートル平方まで広げることができます。

〈7〉【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】

  • 【第 類】
  • 商標の区分を記入します。

  • 【指定商品(指定役務)】
  • 商標の内容の詳細について、ここに記します。

〈8〉【防護標章登録出願に係る商標登録の登録番号】

「商標登録第○○○○○○○号」のように記します。

ただし、防護標章登録出願に係る商標登録が国際登録に基づく商標権である場合は、「(【手数料の表示】)」の欄の次に「【その他】」の欄を設けて、「防護標章登録に係る商標登録は国際登録に基づく商標権である。」と記します。

〈9〉【商標登録出願人】

  • 【識別番号】
  • 今までに出願経験があれば、そのときに発行された識別番号を記入してください。初めての出願などで記載する番号がない場合は、この欄は不要です。

  • 【住所又は居所】
  • 個人の方は住民票の住所を、法人の方は登記されたものを記入してください。

  • 【氏名又は名称】
  • 個人の方は氏名、法人の方は会社名となります。ビジネスネームは使用できず、正式名称での申請となります。

  • 【代表者】
  • 個人では記載の必要はありませんが、法人の場合は代表取締役となります。
    (印鑑または識別ラベル)
    法人では代表者印を、個人では名字のわかる印鑑を使用してください。識別ラベルで印鑑を省略する場合は、法人は代表者の横、個人は【氏名又は名称】の横に貼付します。

  • 【国籍】
  • 外国人の場合は記入します。

〈10〉【手数料の表示】

【予納台帳番号】
ここには予納台帳の番号を記入します。

防護標章登録願は商標登録願の書類とほぼ同一ですが、「〈8〉【防護標章登録出願に係る商標登録の登録番号】」も書かなければいけません。

また、防護標章の権利の存続期間は、商標権と同様に登録された日から10年となっています。

拒絶通知になってしまったら…

拒絶理由通知は、特許庁の審査官から出願人に通知される書面のことで、審査官が登録できないと判断した場合に出されます。これを放置すると登録できません。

そのため、発行されたときには意見書や手続補正書を提出しましょう。

意見書とは、拒絶理由通知で指摘された趣旨に対して反論する書類です。過去の登録例を挙げ、正当な反論理由を考えます。

手続補正書とは、出願内容を訂正するために提出する書面です。

変更して防護標章にすることも…

団体商標登録出願(注2)から防護標章登録出願へ変更出願することもできます。

(注2)団体商標登録出願…構成員に使用させるための商標について登録できる制度で、事業者を構成員に有する団体が所有する商標になります。

費用はどれくらいかかるでしょうか

防護標章制度にかかる特許庁の印紙代は、通常の商標登録よりも高くなっています。
2016年4月1日時点での費用形態です。

  • 防護標章登録出願または防護標章登録に基づく権利の存続期間更新登録出願(特許庁の印紙代)
    6,800円+(区分数×17,200円)
  • 商標(防護標章)登録異議申立の審理への参加申請(特許庁の印紙代)
    3,300円
  • 防護標章登録料(特許庁の印紙代)
    区分数×28,200円
  • 更新登録料(特許庁の印紙代)
    区分数×33,400円

(2-2)登録の判断基準はなんでしょう

制度利用の条件

先に述べたように、著名な登録商標であることが前提です。そのため、商標登録と同じく先行出願されたものが、防護標章制度を利用できます。

  • 使用の意思について
    防護標章は使用する意思がなくても登録することができます。
    商標登録では使用の意思がなく、過去3年間指定区分の範囲で使用されていなかった場合、不使用取消審判の対象となります。
  • 商品・役務の区分の範囲について
    商標登録とは異なり、指定商品・区分以外のすべての範囲に禁止権がおよびます。

「著名」の判断基準はなんでしょう

防護標章は「使用の有無にかかわらず著名な商標を保護する」ものです。
著名であるかの審査基準は「需要者の間に広く認識されている商標(相当な知名度)」です。

これは次のことを考慮し、総合的に特許庁が判断します。

  • 登録商標の使用開始時期、使用期間、使用地域、使用商品・役務の範囲などの使用状況に関する事実
  • 登録商標を周知するための広告宣伝活動の程度または普及度
  • 登録商標権者の企業規模、営業状況、取扱い品目などについて商品・役務との関連性
  • 原登録商標が著名であることが、審決または判決において認定されているなど、特許庁において顕著な事実であること

また、上記の著名であることの判断に加え、その商標が需要者にどれほど誤解を与えるかどうかも基準となります。

  • 本来の登録商標権者の業務にかかわる商品・役務であると誤解する場合
  • 本来の登録商標権者と経済的または組織的に密接な関連があると一般的に誤解させる場合

実際の著名標章の例

次に挙げるものは、実際に登録されている著名標章の例です。

キューピー


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

マーク/グリコ


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

マーク/Canon


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

(3)防護標章登録した後は?

(3-1)更新をしましょう

更新の際の審査

更新の出願手続きも、本来の登録商標とは別に行います。

願書の様式や注意点については、特許庁のHPに詳細が記されています。

   特許庁 「出願の手続」から(第五章「商標登録出願の手続」)
   https://www.jpo.go.jp/shiryou/ kijun/kijun2/pdf/syutugan_tetuzuki/05_01.pdf

「防護標章登録願」と異なる部分だけ簡単にご説明します。

〈1〉【書類名】

「防護標章登録に基づく権利存続期間更新登録願」としてください。

〈2〉【防護標章登録の登録番号】

登録番号を記入してください。

また、防護標章登録に基づく権利にかかわる商品および役務の区分の数を減らして存続期間の更新登録の出願をする場合は、「【防護標章登録の登録番号】」の欄の次に「【商品および役務の区分】」の欄を設けて、更新登録を求める商品および役務の区分のみを次のように記入してください。
【商品及び役務の区分】
   【第○類】
   【第○類】

防護標章の更新は、商標登録が「申請」であるのに対し「出願」となります。よって、もう一度審査されるため、更新が必ずできるとは限りません。
そのため、出願登録の際に受けた審査判断基準を満たしていない場合は、更新できず、登録は終了します。

また、更新登録の出願をした人が、その防護標章の権利者でない場合も更新はできません。

(3-2)他人に侵害されてしまったら

まず、侵害とはどういった行為をいうのでしょうか

防護標章制度は、指定商品・役務の枠を超えて同一の標章が他人が使用されることを禁止しています。

具体的にどのような行為を指すのでしょうか。商標法では次のように規定されています。

第六七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。

  1. 指定商品又は指定役務についての登録防護標章の使用
  2. 指定商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録防護標章を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
  3. 指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録防護標章を付したものを、これを用いて当該指定役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
  4. 指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録防護標章を付したものを、これを用いて当該指定役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
  5. 指定商品又は指定役務について登録防護標章の使用をするために登録防護標章を表示する物を所持する行為
  6. 指定商品又は指定役務について登録防護標章の使用をさせるために登録防護標章を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
  7. 指定商品又は指定役務について登録防護標章の使用をし、又は使用をさせるために登録防護標章を表示する物を製造し、又は輸入する行為

商標法第六七条より引用

どのような対応策があるでしょうか

他人に侵害された場合に取れる手段はいくつかあり、それぞれ請求できる時期や条件が異なります。

金銭的請求権

請求できるのは出願人です。出願してから登録を受けるまでの間に、その商標を無断で使っている人に対して、金銭の支払いを求めることができる権利です。

この権利が認められるには条件が4つあります。

  • 商標を出願していること
  • 出願人は出願内容を記載した書面を提示し、相手に警告すること
  • その警告後に、相手がその商標を使用したこと
  • 警告した相手が使用したことによって出願人が業務上の損失を受けたこと
差止請求権

請求できるのは商標権者もしくは専用使用権者です。他人によって商標権が侵害または侵害されるおそれがある場合に、侵害の停止、予防を請求することで商標の使用を差し止めることができる権利です。

予防も請求することができるため、相手方に故意または過失があることは要件ではありません。ただし、客観的に「侵害されるおそれがある」と判断される場合に限ります。

損害賠償請求権

請求できるのは商標権者もしくは専用使用権者です。故意または過失により侵害した者は権利者に生じた損失を賠償する責任があります。そのため、権利者は裁判所への訴訟提起をすることで被った損害の賠償を求めることができます。

不当利得返還請求権

当事者間(侵害した者、された者など)の公平をはかるためにあります。損害賠償請求権と競合する場合は、任意に選択することができます。
侵害し利益を受けた者が侵害行為によって現実に得た利益の返還を求めるものです。

信用回復措置請求権

他人によって商標を使用され、何らかの形で信用を害された場合の救済措置です。

商標権者は業務上の信用を回復させるのに必要な措置を、侵害した者に対して命ずるよう裁判所に請求できる権利です。具体的には、侵害者による新聞や業界紙への謝罪文の掲載等を要求することが可能です。

刑事責任の追及

商標権を侵害されたときのなかでも悪質な侵害、故意による侵害の場合は刑事告訴によって刑事上の責任を追及することも可能です。

不正競争防止法による措置

著名商標については、不正競争防止法上の不正競争と見なされれば、「商標権」と「防護標章登録」の権利がおよばない範囲についても、他人の使用を差し止めることなどができます。

ただし、不正の目的をもって使用したものであることを証明しなければなりません。これらが立証できなければ、保護が認められないということにもなります。

著名なロゴをデザインしたものなどは、不正競争防止法上の商品の表示として保護を認める判決が下されています。

(3-3)元の登録商標が…

消滅した場合

防護標章の権利の存続期間は10年ですが、元となっている登録商標の権利が消滅した場合は同時に消滅します。防護の対象がなくなり、防護標章だけを存続させる意味がないからです。

回復した場合

元になっている登録商標が回復した場合は、商標権とともに防護標章登録に基づく権利は最初から回復します。このとき、「回復理由書」という書類を出さなければいけません。

願書の様式や注意点については、特許庁のHPに詳細が記されています。

   特許庁 「出願の手続」から(第五章「商標登録出願の手続」)
   https://www.jpo.go.jp/shiryou/ kijun/kijun2/pdf/syutugan_tetuzuki/05_01.pdf


「防護標章登録願」と異なる部分だけ簡単にご説明します。

〈1〉【書類名】

「回復理由書」としてください。

〈2〉【防護標章登録の登録番号】

回復を望む防護標章登録の登録番号を記します。

〈3〉【回復の理由】

所定の期間内に手続きをすることができなかった理由および理由がなくなった日について具体的に記します。

(4)まとめ

ここまでの説明を読み、防護標章制度は難しそうだなと思われたかもしれません。しかし、そのぶん禁止権の範囲が広く、手厚く保護することができるのです。
大切なあなたの標章を守るために、防護標章登録に挑戦してみてください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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