「色彩のみからなる商標」トンボ鉛筆が文字のない「MONO消しゴム」を新発売

大手文房具メーカーのトンボ鉛筆は、2017年8月18日に新たな「MONO消しゴム」を発売すると発表しました。皆さんも青、白、黒という3色のストライプに「MONO」という英文字が書かれた消しゴムには見覚えがあるのではないでしょうか?しかし、今回発売されるものには、この「MONO」の文字がありません。なぜこのような商品が発売されることになったのでしょうか?そこにある商標とのかかわりも含めてお話します。

(1)受験生のための新商品

「平成30年度大学入試センター試験受験案内」のなかには、試験中の所持品の取り扱いについて記されています。

そこには、黒鉛筆はH、F、HBに限られ、格言や和歌などが印刷されたものは不可であることや、地図や英文字が柄に含まれる服を着用しないことなど、さまざまな注意が促されています。

しかし、現在では商品名やデザインに英文字が使われることも多く、入学試験時の文房具選びに苦労する受験生もいたようです。

そのためトンボ鉛筆では、「MONO消しゴム」から英文字を除くことで、受験生が安心して使える新商品を発売することになりました。

(2)なぜ、商品名を外すことができたのでしょうか?

(2−1)「MONO消しゴム」の長い歴史と実績

しかし、商品に記載された名前を外すというのは、簡単なことではありません。

名前はその商品の顔であり、それまで築き上げてきたブランドそのものです。
それを外して販売することは、自身の商品だと認識してもらう術がなく、大多数のなかに埋もれてしまうことを意味します。

けれど、トンボ鉛筆は「MONO消しゴム」から英文字を除いた新商品の発売を決断しました。なぜそのようなことが可能だったのでしょうか?

その理由は、商品の紙ケースの特徴的な青、白、黒という色彩の組み合わせにあります。

「MONO消しゴム」は1969年の発売開始から、長年、人々に愛用されてきました。
そのため、今回のニュースを知らなくても、店頭で文字のない新商品を目にしたとき、多くの人が「MONO消しゴム」を思い浮かべることが可能です。

名前を記載していなくても、商品として成立する。
それはこれまで積み上げてきた長い歴史と実績があってのことなのです。

手の平に収まる消しゴムに、そんな大きなものが込められていると思うと、感慨深いですね。

(2−2)色彩の組み合わせがもつ識別力と著名性

また、「MONO消しゴム」の青、白、黒という3色のストライプは、新しいタイプの商標の1つである「色彩のみからなる商標」の登録第1号となったものです。

つまり、その色彩の組み合わせに識別力や著名性があると認められたものなのです。

次の項目からは、この「色彩のみからなる商標」について簡単にご説明していきます。

(3)新しいタイプの商標「色彩のみからなる商標」

(3−1)「色彩のみからなる商標」とは?

商標法の改正により、2015年4月から、5つの新しいタイプの商標が登録可能になりました。

これらは、それまで商標としての保護が難しかったもので「色彩のみからなる商標」のほかには、「音商標」、「動き商標」、「位置商標」、「ホログラム商標」があります。

「色彩のみからなる商標」とは、単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標のことを指しています。

改正前のように図形や文字、記号などと結びついたものではなく、色彩そのものが商標として認められるようになったものです。

(3−2)出願開始日から殺到

新しいタイプの商標は多くの関心を集め、出願開始日である2015年4月1日には481件もの出願が殺到しました。このうちの192件が「色彩のみからなる商標」のものです。

しかし、ほかの新しいタイプの商標が少しずつ登録されていったにもかかわらず、「色彩のみからなる商標」は、なかなか登録されるものが出てきませんでした。

2017年2月20日時点の特許庁の統計をみていると、新しいタイプの商標の出願件数は1,494件、登録件数は207件となっています。

登録件数の内訳は、以下の通りです(カッコ内は出願件数)。

  • 「音商標」110件(出願:517件)
  • 「動き商標」65件(出願:123件)
  • 「位置商標」23件(出願:345件)
  • 「ホログラム商標」9件(出願:17件)
  • 「色彩のみからなる商標」0件(出願:492件)

こうしてみると、「色彩のみからなる商標」の登録がいかに困難であったかがわかります。

色彩だけを用いて、それが誰のもので、どのような商品やサービスに使われているかを判別するには難しさが伴い、それを可能にするには特徴的な色合いと高い著名性が必要となります。

そのため、最初の登録が認められるまでには、出願開始から約2年の年月を要しました。

(3−3)「色彩のみからなる商標」登録第1号

そして2017年3月1日、特許庁は「色彩のみからなる商標」について、初めて2件の登録を認めると公表しました。

このとき選ばれたのが、トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」とセブンイレブンの看板に用いられる色彩です。

商標の詳細は、次のようになります。

トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」に用いられる色彩(商標登録 第5930334号)

権利者:トンボ鉛筆
出願日:2015年4月1日
登録日:2017年3月10日

区分は以下の通りです。

  • 第16類「消しゴム」


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

セブンイレブンの看板に用いられる色彩(商標登録 第5933289号)

権利者:セブン−イレブン・ジャパン
出願日:2015年4月1日
登録日:2017年3月17日

区分は以下の通りです。

  • 第35類「身の回り品の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、飲食料品の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、酒類の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、野菜および果実の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、菓子およびパンの小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」など


特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

この2件が登録されてから現在まで、「色彩のみからなる商標」について新たに登録されたものは、まだありません(2017年8月10日現在)。

(4)さらに「色彩のみからなる商標」を深く知りたい方は…

「色彩のみからなる商標」では、詳細な色彩の指定や順番も重要になります。

さらに権利のおよぶ範囲や保護の必要性など、「色彩のみからなる商標」について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

(5)まとめ

文字のない「MONO消しゴム」は8月に発売され、これから秋から冬に向けて受験生たちは追い込みに入っていきます。

けれど、緊張する試験当日も、慣れ親しんだ筆記用具を手にできると、落ち着きを取り戻せるかもしれませんね。

トンボ鉛筆によると、「MONO」というブランド名は「唯一の、無類の」という意味から名付けられたそうです。

それぞれの道を切り拓こうとしている受験生たちに、少しでも力を与えてほしいですね。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

よく読まれている記事

議論に参加する

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です