中身は本物、でもアウトです!〜商標権侵害事件から見えてくる商標の機能〜

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1.偽「響30年」事件

(1)あらまし

2017年6〜7月ごろ、仙台市の男性会社員(29)にフリマアプリを通じて響30年の偽物5本を販売し、サントリーホールディングス(HD)の商標権を侵害、代金計99万円をだまし取った疑い。本物の瓶と箱を入手し、他のウイスキーを入れていたとみられる。
日本経済新聞(2018年8月21日 15:53)より引用

その他の新聞でも報道されています。

<参考>
日本経済新聞(2018年8月21日 15:53)
https://www.nikkei.com/ article/DGXMZO34395500R20C18A8CN8000/

毎日新聞 (2018年8月22日 8:38 (最終更新 8月22日 9:15))
https://mainichi.jp/ articles/20180822/k00/00e/040/252000c

ジャパニーズウイスキーは現在大変品薄で、特に「〇〇年」といった年数表記のあるものは今や高嶺の花。

さらに「30年もの」は製品になるまでに最低でも30年かかるわけですから、もともと高級品です。

そうすると、定価よりかなり高額でも買い手がつくことは予想できますよね。

なおこの事件の容疑者の一人は、同様の容疑で再逮捕されたようです。

逮捕容疑は平成29年10月1日、東京都文京区小石川の古物店に、知人を介して響30年の偽物4本を販売、サントリーホールディングス(HD)の商標権を侵害し、代金計66万円をだまし取ったとしている。
偽「響30年」販売で再逮捕 商標法違反と詐欺容疑 三重県警
産経WEST(2018年9月10日 21:12)より引用

<参考>
産経WEST(2018年9月10日 21:12)
https://www.sankei.com/ west/news/180910/wst1809100066-n1.html

(2)「響」に関する登録商標

「商標権の侵害」を疑われるからには、同じor似ている登録商標があるはずです。

そこで調べてみますと、「響」に関する商標はいくつか登録されています。

HIBIKIの登録商標
特許庁の商標公報より引用

  • 商標登録第2067154号
  • 権利者:サントリーホールディングス株式会社
  • 出願日:1985年8月14日
  • 登録日:1988年7月22日
  • 指定商品:
    第32類「ビール,ビール風味の麦芽発泡酒」
    第33類「洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」

ボトルの立体商標も登録されています。

響の立体商標

響の立体商標(横)

響の立体商標(正面)
特許庁の商標公報より引用

  • 商標登録第4177394号
  • 権利者:サントリーホールディングス株式会社
  • 出願日:1997年4月1日
  • 登録日:1998年8月14日
  • 指定商品:
    第33類「ウイスキー」

ラベルに表示されている毛筆体の漢字も登録商標です。

響の登録商標
特許庁の商標公報より引用

  • 商標登録第5188663号
  • 権利者:サントリーホールディングス株式会社
  • 出願日:2008年6月2日
  • 登録日:2008年12月12日
  • 指定商品:
    第33類「洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒,麦および麦芽を使用しないビール風味のアルコール飲料」

2.中身が本物でもNGのことが・・・。

この「響30年」のケースが「他人の商標権を侵害している」というのは頷けるのではないでしょうか。

想像してみてください。

今や希少品になってしまった「響30年」をやっとのことで入手。いざ飲んでみたら「?」な味。

そうすると、次に「響30年」を見かけても買わずに、友人知人にも買わないように言ってしまうかもしれません。

こんなケースが続けば、サントリーには大きな損害になってしまいます。

しかし、過去には、大容量で売られている正規品を購入して小分けにし、元の販売者の登録商標に似た商標を使って無断で販売した「STP事件」(大阪地裁昭和51年(ヨ)第2469号)や「マグアンプK事件」(大阪地裁平成4年(ワ)第11250号)のように、中身は本物でも商標権の侵害だと判断されてしまったケースがあるのです。

中身が本物ならば、少なくとも明らかに成分が違ったり、効果が全くないといったことは考えにくいですよね。

ではなぜ裁判所が「商標権侵害」を認めたかというと、そこには「商標の機能」が関わってくるのです。

3.商標の機能とは?

商標には、課せられた使命であるところの「機能」が4つあると言われています。

それでは、商標が持つ機能を「響」のウイスキーを例にご説明しましょう。

(1)自他商品等識別機能

同業の商品や役務(以下「商品等」とします。)の中で、自分たちのものを区別する機能です。

「自他商品等識別機能」があってはじめて他の3つ機能も働くので、4つの機能の中でも本質的で最も重要な機能です。

例えば、世の中に出回っているウイスキーが全て同じ形で何のラベルも貼られていないボトルに入っていたら、みんな同じに見えて区別がつきませんが、ボトルに「響」と表示されたラベルをつけることで、自分のところの商品を見つけてもらうことができます。

(2)出所表示機能

誰から供給された商品等かをあらわす機能です。

例えば、ボトルに「響」と表示されているウイスキーはサントリーの商品と分かるのは、この機能が働いている証拠です。

(3)品質保証機能

同じ商標が使われている商品等は、一定の品質等であることを保証する機能です。

例えば「響」と表示されているボトルに入っている同じ種類のウイスキーを買っているのに、毎回明らかに味が違うということはないということです。
(ただしウイスキーという商品の性質上、熟成年数が異なれば味も違いますし、気候などに左右されるので完全一致とはいきません。)

(4)宣伝広告機能

その名の通り、商標を使用する商品等を宣伝する機能です。

例えば、「響」と表示されているボトルに入っているウイスキーを気に入ったAさんが、友達のBさんCさんに勧める際には、「響」という名称を伝えて紹介することが一般的でしょう。

また、テレビ等のCMで見た商標や、最近ですと聞いた音響商標が一般需要者の印象に残り、実際にその商品等を目にしたときについつい選んでしまうというケースも、商標の宣伝広告機能のなせる技でしょう。

これらの機能を念頭に置いて「STP事件」や「マグアンプK事件」の事例を考えて見ると、裁判所の判断に頷けるのではないでしょうか。

実際、「STP事件」では、中身が本物だからといって誰もが勝手に登録商標を使ってしまったら、登録商標への信頼は落ち、結果、その機能が発揮できなくなるという趣旨の判断をしていますし、「マグアンプK事件」では、商品の品質に変化を来たすかどうかは関係なく商標権の侵害を構成するとしつつも、小分けによる品質劣化によってもとの商品と内容が同一でなくなってしまう可能性にふれています。

また「STP事件」や「マグアンプK事件」よりも前には、未使用の正規品を回収し、もう一度販売するために無断で登録商標に似た商標を印刷した段ボールに入れて持っていた「ハイミー事件」(最高裁昭和44年(あ)第2117号)というものもあります。

この事例では、回収した正規品は封も開けていないので、異物が混入することもありません。

それでも裁判所は、正当な権限ない者が包装に登録商標をつけたものを販売目的で持っている場合、その中身が新品の本物でも商標権侵害の罪の成立には関係ない旨の判断を下しています。

4.まとめ

商標を使い続けることでこれらの機能が働き、使っている人(商標権者)の信用が商標に蓄積していきますが、蓄積された信用が大きくなるほど、発揮される機能も強くなる関係と言えるでしょう。

大勢の人におなじみ(つまり発揮する機能が強い)商標ほど、その裏には使っている人(商標権者)の努力と需要者の信用が詰まっているんですね。

それではまた。

ファーイースト国際特許事務所
弁理士 杉本 明子
03-6667-0247

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