【事例研究】ネイルサロンで一度許可した商標使用を取り消すことができるか
前回と同じく実際に裁判で争われた事例を題材に、商標権を巡るトラブルについて解説したいと思います(*当事者を特定できないように事案に変更を加えています)。
ネイルサロンの実店舗で営業している花子さんのところで働いていた太郎さんが独立したい、と花子さんに相談しました。
花子さんは太郎さんの独立を承認し、ネイルサロンの店名の使用も問題ないと認めました。
今後に備えて花子さんと太郎さんは今後仲良くしていく、互いに争わないとの契約書も結びました。
店名使用の許可を与えた相手が約束を守ってくれない
ところが時間が経って、太郎さんのお店に悪い評判が噂されるようになりました。
噂を聞くとサービスが悪いとのことです。
花子さんは太郎さんに悪い評判があるようだから業務を改善するように再三お願いしました。
しかし太郎さんはそんな事実はないと否定するばかりです。
このまま放置すると、同じ名前のこちらの店の評判も悪くなってしまいます。太郎さんに口でいうだけでは効果がないと考えた花子さんはネイルサロンのお店の名前を特許庁に商標登録しました。
ただし、花子さん名義で商標登録したのでは、お店の名前を使ってもよいというこれまでの契約内容から太郎さんにお店の名前の使用を商標権で止めさせるのは困難です。
そこで花子さんは別会社を設立し、その会社名義でお店の名前を商標登録しました。
商標登録により相手の商標使用を止めさせることができるか
花子さんと新たに設立した会社は法律上は別人です。新たな会社が商標権者になった場合、新たな会社と太郎さんとの間では登録商標を使用してもよい、という契約を結んだことはないのですから、商標権により太郎さんのお店の名前の使用を止めさせることができるはずです。
花子さんの会社は、実際に裁判所に訴訟を提起し、商標権侵害により太郎さんのお店の名前の使用中止を求めました。
本件について裁判所で審理されましたが、裁判所は花子さんの訴えを認めませんでした。
太郎さんに登録商標を使ってもよいと言ったのは花子さんであり、また新たな会社の代表者も花子さんです。個人の花子さんと会社の代表者としての花子さんとの間に違いはありません。
もしそうならこれまで契約で使ってもよいとしていた登録商標の使用を花子さんの会社が認めないのは信義則に反するため認められないでしょう、というものです。
ちなみに花子さんが第三者を新たな会社の代表者に立てて裁判を行った場合も結論は同じになると考えられます。
裁判では実質的な内容にまで踏み込んで判断がなされています。このため表向きの体裁を整えるだけでは、自分でした許可を正当な理由なしに、後からその許可をなかったことにすることはできない、ということになります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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