「お茶づけの永谷園」の歩みを支え続ける商標

さらさらとした口当たりのお茶づけは、遅い時間の食事や食欲がないときの強い味方です。では、「お茶づけ商品といえば?」と問われたとき、何が思い浮かぶでしょうか?赤、黄、黒、緑という鮮やかな縞模様のパッケージが頭をよぎった方も多いかもしれません。1952年に「お茶づけ海苔」が発売されて以来、永谷園のお茶づけ商品は、人々の間に広く浸透しています。そしてこれらの商品も商標と無縁ではありません。ここでは、永谷園と商標との深いかかわりについてご紹介します。

お茶づけの画像

(1)茶業を営む親子によって開発「お茶づけ海苔」

(1−1)多くのこだわりが込められた商品

発売から60年以上を経たいまも、多くの人の支持を得ている「お茶づけ海苔」。
この商品は、株式会社永谷園本舗(現・株式会社永谷園ホールディングス)の創業者・永谷嘉男と、その父・永谷武蔵によって開発されたことをご存知でしょうか?

これは、茶業を営んでいた父・武蔵がつくった「海苔茶」(海苔を細かく切り、食塩や抹茶を加え、お湯で溶いたもの)を改良し、刻み海苔に調味粉、あられを加えてつくり出されたものです。

そして、品質はもちろん、そのほかの点でも強いこだわりをもってつくられていました。
例えば、表記については、「お茶づけ」の「づけ」はひらがなにし、逆に「海苔」は漢字にするなど、細部まで気が配られています。

また、当時はすべて手づくりで製造されており、海苔が湿気らないよう厳重に梱包され、自転車の後ろにリアカーを付けて、1軒ずつ納品先に届けられていました。

そのような努力の甲斐あってか、「お茶づけ海苔」は予想以上の売り上げとなり、問屋を通してデパートに納入されるようになりました。

(1−2)類似品が出回るトラブル

発売以降、順調に売り上げを伸ばしていった「お茶づけ海苔」ですが、一時、それが低迷する事態に見舞われます。

その理由は、現在、商標を取り巻く問題と重なるものです。

「お茶づけ海苔」の人気に注目した第三者の手によって、類似品が市場に出回るようになっていたのです。
そのため、デパートからの注文がなくなるなど、大きな打撃を受けることになりました。

当時、商品のパッケージに記載されていたのは、「江戸風味 お茶づけ海苔」という言葉だけでした。これでは、第三者が容易に真似できてしまい、その侵害を防ぐことは難しくなります。

そのため、創業者の永谷嘉男は、自身のブランドを守る必要性を実感し、パッケージに「永谷園」と明記するようになったのです。

そして1955年には、以下の商標が出願され、翌1956年に登録されています。

永谷園(商標登録 第479578号)

永谷園の文字登録商標
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

  • 権利者:株式会社永谷園ホールディングス
  • 出願日:1955年8月18日
  • 登録日:1956年4月20日

区分は以下の通りです。

  • 第29類「水産物のつくだに、野菜の漬物、野菜の缶詰および瓶詰(乾燥野菜の缶詰・瓶詰を除く)、カレー・シチューまたはスープのもと、お茶づけのり」など

(2)歌舞伎をモチーフにした印象的なパッケージ

(2−1)人目を引く江戸情緒の漂うデザイン

開発当時、さまざまなこだわりが込められた「お茶づけ海苔」は、パッケージについても印象的なデザインが採用されています。

鮮やかな色合いの縞模様は、創業者が好きだった歌舞伎の定式幕をなぞらえたもので、お茶づけが庶民の生活に浸透した江戸時代の情緒も感じさせます。

これまでにない、お湯を注いだだけでお茶づけが食べられるという新しい商品。
人目を引くパッケージは、その周知を成功させ、大いに売り上げに貢献したようです。

〈以前のパッケージ〉永谷園のお茶づけ海苔(商標登録 第491143号)

永谷園のお茶づけ海苔のパッケージ登録商標
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

  • 権利者:株式会社永谷園ホールディングス
  • 出願日:1956年2月25日
  • 登録日:1956年11月13日

区分は以下の通りです。

  • 第29類「お茶づけのり」

〈最近のパッケージ〉永谷園お茶づけ海苔(商標登録 第4392199号)

永谷園お茶づけ海苔の登録商標画像
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

  • 権利者:株式会社永谷園ホールディングス
  • 出願日:1999年7月30日
  • 登録日:2000年6月16日

区分は以下の通りです。

  • 第29類「お茶づけのり」

(2−2)華やかさを加える隈取り

また、永谷園のお茶づけのパッケージには、隈取りが描かれていることにお気づきでしょうか?

隈取りとは、約50種類あるといわれる歌舞伎ならではのメークのことです。
現在、「お茶づけ海苔」のパッケージに描かれているのは、「暫(しばらく)」と呼ばれるものです。

この隈取りは、発売時には描かれていませんでした。
けれど、進物用としては少し物足りない印象があったため、パッケージに加えられるようになりました。
これもまた、創業者による華やかさを出すための案でした。

当時は、進物用の商品などに描かれるだけでしたが、1995年からはお茶づけのパッケージにも記載されるようになりました。

(2−3)隈取りに関係する商標

永谷園は、隈取りに関係する商標も多数登録しています。
その一例は、以下の通りです。

図形として商標登録されている隈取り(商標登録 第541103号)

永谷園の隈取り登録商標
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

  • 権利者:株式会社永谷園ホールディングス
  • 出願日:1958年4月18日
  • 登録日:1959年8月25日

区分は以下の通りです。

  • 第29類「海苔および魚貝の粉末または海苔を主材としたお茶づけ食用のふりかけ」

歌舞伎・イメージ画像

コラム

煎茶の創始者から続く歩み

「お茶づけ海苔」の発売は1952年ですが、そのきっかけは1738年にさかのぼります。
この年、永谷宗七郎(後の永谷宗円)は、煎茶の製法を発明しました。

それまで庶民の間では、赤黒い色をした「煎じ茶」がよく飲まれていましたが、これは味も香りも薄い、あまりおいしくないものでした。
そのため、宗七郎はおいしいお茶をつくろうと15年にもわたる研究を続け、美しい薄緑色をした「青製煎茶」を開発しました。

現在の永谷園の創業者・永谷嘉男は、宗七郎から数えて10代目にあたります。
代々、お茶とともに歩んできたことがわかりますね。

そしていま、宗七郎は地元の京都で「茶宗明神」として祀られており、茶業を営む多くの人が足を運んでいます。

また、永谷園は、宗七郎の命日である5月17日を「お茶づけの日」と制定しました。

お茶の画像

(3)テレビCMでおなじみ・永谷園の「動き商標」

(3−1)「お茶づけ海苔」の袋から飛び出す文字

「サッ」「サッ」という軽い音とともに、「お茶づけ海苔」の袋から、ころんと出てくる「N」字状の図形と、「味ひとすじ 永谷園」の文字。

永谷園のテレビCMで流れているため、ご覧になった方もいるのではないでしょうか。
これは、現在、「動き商標」として登録されています。

「動き商標」とは、時間が経過するにしたがって文字・図形などが変化していく商標であり、2015年4月に出願が開始した新しいタイプの商標の1つです。

永谷園のお茶づけ 味ひとすじ永谷園(商標登録 第5860816号)

永谷園・登録商標(動き商標)
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用

この商標では、上記の9枚の絵が、時間とともに変化していきます。
その所要時間は、約1秒間です。

〈1〉〜〈6〉の変化

まず、開封された「お茶づけ海苔」の袋が画面上部に姿をみせ、上下に振られます。
このとき、以下の番号の画像が示すように、袋のなかから文字などがこぼれ出てきます。

  • 〈4〉「永谷園」のアルファベットの頭文字を示す「N」字状の図形、
  • 〈5〉「永谷園」の筆文字、
  • 〈6〉1文字ずつ回転する「味ひとすじ」の文字

そして、〈6〉の最後で、袋は画面から消えていきます。

〈7〉〜〈9〉の変化

ここで、「味ひとすじ」、「永谷園」、「N」字状の図形の3つが、それぞれ3列に並んでいきます。

商標登録 第5860816号の登録情報
  • 権利者:株式会社永谷園ホールディングス
  • 出願日:2015年5月1日
  • 登録日:2016年6月24日

区分は以下の通りです。

  • 第29類「乳製品、加工水産物、カレー・シチューまたはスープのもと、お茶づけのり、ふりかけ」など
  • 第30類「茶、パン、調味料、穀物の加工品、弁当」など
  • 第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、ビール製造用ホップエキス」など

(4)新たに開発されるさまざまな商品

2017年には、「お茶づけ海苔」の発売から65周年を迎えました。

いまでは、ロングセラーとなった商品のほか、春夏限定の「冷やし茶づけ」やカップにごはんが入った「カップ茶づけ」、各地方の特色を生かした「地域限定みやげ」など、さまざまな商品が販売されています。

時代とともに多様化する消費者のニーズに応えるためには、レギュラー商品を守りながら、新たな商品を開発する必要もあります。

現在の商品のラインナップや、ブランドの取り組みなどは、以下のホームページで確認できます。

チェックしてみましょう

[詳細情報/記事参考]「永谷園」 http://www.nagatanien.co.jp

お茶づけ・イメージ画像2

(5)まとめ

創業当時、第三者に類似品を販売されるという苦い経験をした永谷園は、現在、「お茶づけといえば永谷園」といえるほど、強固なブランドを確立しています。

ここに至る背景には、自身のブランドを守ろうと邁進してきた創業者や多くの関係者たちの姿があります。

いま永谷園は、創業時の看板商品である「お茶づけ海苔」のほか、数多くの商品を商標として登録しています。これら1つひとつの商標は、商品やブランド自体の価値を守るだけでなく、関係者たちが歩んできた道のりを伝えるものでもあるのです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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