1.商標の機能
商標には大きく分けて次の4つの機能があるといわれています。
①出所表示機能 ②自他商品役務識別機能 ③品質保証機能 ④宣伝広告機能です。まずは、この4つの機能について簡単に説明してみましょう。
①出所表示機能
同じ商標が与えられた商品またはサービスは常に一定の出所から出ていることを示す機能をいいます。
商標にはこの出所表示機能が備わっているため、需要者は気に入った商品を繰り返し購入することができ、また、逆に商標権者はリピーターを獲得することが出来るのです。
②自他商品役務識別機能
同じような商品またはサービスの中から、自分の商品またはサービスを区別する機能をいいます。
例えば「トマト」に「とまと」という名称を使用してもそもそも商品の種類と商標が同じ意味ですので、商標がつけられたトマトが、どこで誰が栽培・収穫したトマトのことなのかほかのトマトと区別することできません。
つまり、商標「とまと」は商品「トマト」に使用する商標としては、何ら特徴的ではなく、数多く存在するトマト中から特定のトマトを区別できず、目印として全く機能していません。
このように自他商品役務識別機能は「識別力」や「特別顕著性」と呼ばれ、この機能を持たない商標は出願しても原則として拒絶理由が通知されてしまいます。
③品質保証機能
同じ商標が与えられた商品またはサービスは常に均一の品質で提供されることをあらわす機能をいいます。
例えば、「一度購入したお菓子がおいしかったので、また、あの味を求て同じお店の行列に並んでしまいました。やっぱりおいしかったです。」なんてエピソードが皆さんにもあると思いますが、要するにそれが品質保証機能です。
「商品の高品質を保証する機能であって、質が下がったら登録を取り消します。」というものではありません。
④宣伝広告機能
商標が手掛かりとなり、需要者に商品またはサービスを選んでもらうきっかけを作る機能です。
例えば「ポテチは決まって湖池屋のりしお」「男は黙って黒ラベル」「PCは絶対マック」等、皆さんにも絶対に譲れないこだわりがあるかもしれません。
しかし、購入するありとあらゆる商品にこだわりがあって、何を買うのか最初から決まっている方はかなり少ないと思います(いないと思います)。
店に入り同じような商品が並びどちらを購入するか迷った時に、ふと昨日何気なく目にした新発売を謳うテレビCMを思いだし、その商品を手に取ってみると、特に不満もなかったので結局買ってしまいました。
これが宣伝広告機能です。
やはり、テレビCMの効果はいまでも絶大ですが、近ごろはインタネット上の広告の効果も侮れません。
2.4条1項16号
商標法第1条は次のように規定されています。
「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」
(1条)
つまり、商標を保護することで、商標に蓄積した権利者の業務上の信用を維持し、同時に「需要者」を保護しているのです。ここで、商品との関係でその内容が紛らわしい商標が登録されたのでは、需要者を保護することが出来ません。
また、このような取引が混乱するような状況を黙認したのでは、産業の発達も阻害することにもなります。
そこで商標法は品質を誤認する可能性がある商標について以下のように規定し、商標登録の対象から外しているのです。
「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」
(4条第1項16号)
例えば、先ほどの例をここでも使用すると商品「トマト」に商標「とまと」は特徴的ではなく(識別力、特別顕著性なし。)商品に使用する目印として機能しませんので、商標登録を受けることが出来ません。
では、商品「トマト」に商標「キュウリ」ではどうでしょうか。
別の野菜になってしました。
つまり、商品「トマト」に商標「キュウリ」を使用した場合、確かに特徴的にはなりましたが、今度は「トマト」なのか「キュウリ」なのか野菜の購入者は一見しただけでは紛らわしく、迷ってしまうでしょう。
いやさすがに見た目が全く違うんだから「トマト」に「キュウリ」とでは間違わないでしょう、という方のために次の例はいかがでしょうか。
商品「ガソリン自動車」に商標「ディーゼルランナー」を使用した場合、どうなるでしょう。
自動車にあまり詳しくない方のために説明しますと、商標の中に含まれる「ディーゼル」の単語は燃料の種類である「軽油」を表す単語です。
また、商品「ガソリン自動車」に使用される燃料の種類は「ガソリン」です。
そしてガソリンを使用して走る自動車に誤って軽油を給油した場合、自動車はほぼ確実に壊れます(エンジンの交換、あるいは廃車と言われています。気を付けましょう。)。
つまり、商品「ガソリン自動車」に商標「ディーゼルランナー」を使用した場合、内容がややこしく、商品の品質を誤認する商標ということが出来ます。
このように商品やサービスの内容をミスリードするような危険な商標を、「取引の安全」「需要者の保護」の観点から商標法は登録の対象から除外しているのです。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士秋和勝志
03-6667-0247