商標登録でワイルドカードを使ってオールマイティに商標権が取れるか?

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(1)ワイルドカードを使った商標とは?

登録商標の中にワイルドカードを挿入してオールマイティに商標権を確保する方法

商標登録の実務でよく受ける質問が、ワイルドカードに該当する記号を商標の中に入れて使えないか、というものです。この質問は比較的多いです。

結論からいうと、残念ながら日本の特許庁はワイルドカードの使用を認めていません。登録商標の中にワイルドカードに相当する記号が挿入された場合、その記号があらゆる意味をカバーするものとして扱う法律上の根拠も、実務上の運用も一切ありません。

これは日本の特許庁に限らず、全世界の特許庁も同じです。登録商標でワイルドカードを認めた判決も法律も学説も現状ではないです。

商標のワイルドカードとは?

商標に含まれる文字・記号列の中に、ワイルドカードを挿入しておきます。そのワイルドカードは、あらゆる文字・記号を含むため、あらゆる文字・記号の表現に合致する、というものです。

もともとは、ワイルドカードとは検索に使われる記号であり、文字・記号などを一切限定することなく、あらゆる表現に合致する効力を持つとの意味に用いられます。

仮にワイルドカードを商標に使うことができれば、一つの登録商標で、あらゆる表現を確保できることになり、非常に強い権利になるはずです。

商標にワイルドカードの使用が認められない理由

そもそも商標とは何でしょうか。

商標とは、多量の他社の商品・役務の中から、需要者に一撃でこちらの商品・役務を見つけてもらうための識別標識です。
商標とは?今更聞きにくい基本から最新の知識まで、弁理士が徹底解説!

簡単にいうと、商標とは他社製品と自社製品とを区別してもらうための目印です。目印にならない商標が理論上存在したとしても、そのような商標は実務では法律で保護するほどのものではないとの扱いを受けます。

仮に商標にワイルドカードが使えるとすると、文字・記号列があらゆる他社の商標と合致するため、他社の商品から自社の商品を区別することができません。

一方、商標法には他社の商品と自社の商品とを区別することができない商標は審査に通さないとの規定があります(商標法第3条)。

結局ワイルドカードを含む商標は、商標の本来の役割である自他商品識別力が働かないので、特許庁の審査で商標登録が認められることはありません。

次にワイルドカードを使った商標が特許庁で認められるとします。

そうすると、ワイルドカードを使った商標は、既に存在する他社の商標と合致することになってしまいます。結果的に、ワイルドカードを使った場合の商標権は、既に存在する他社の商標権とことごとく衝突してしまうことになってしまいます。

ちなみに他社の商標権の範囲に含まれる商標は登録しない、との規定があります(商標法第4条第1項第11号)。

やはりワイルドカードを使った商標の登録を認めると、既にある他社の商標権を侵害することになってしまいます。そうなれば社会的な混乱が生じることになるので、ワイルドカードを使った商標を特許庁が認めることはないです。

(2)ワイルドカードの部分を空白にして商標権を取る方法は?

各商標に共通する部分のみを商標登録する

ワイルドカードが使えないなら、バリエーションのある商標群のうち、共通する文字・記号部分のみを商標登録するというのはどうか、との考え方があります。

しかし結論からいうと、この方法も期待した効果は得られにくいです。

多数の商標群のうち、共通する部分のみを商標登録する方法のメリット

多数の商標群がある場合、これらの商標群のうち、共通の表記のみを商標登録する方法は理に適っています。

一般に登録する商標の構成要素を増加させればさせるほど、得られる商標権の範囲は狭くなります。

この関係は、例えば、日本よりも日本国北海道の方が面積が狭く、日本国北海道よりも日本国北海道札幌市の方が面積が狭い関係と同じです。

登録商標の複数の構成要素は、それぞれ相互に範囲を限定する意味があります。構成要素が増えると商標権の権利範囲はどんどん狭くなります。

こういった事情により、共通する最低限の構成要素のみで商標を登録するのは作戦としてはよいです。仮に最低限の構成要素の商標のみを登録することにより、商標群全体をカバーできるのであれば、商標登録のための費用を大幅に削減することができます。

多数の商標群のうち、共通する部分のみを商標登録する方法のデメリット

共通する部分のみを商標登録する作戦の場合、共通する最低限の構成要素のみを登録したとしても、必ずしも他社の商標の登録排除には役立たない場合もあります。

実例でみてみましょう。


特許庁公開の商標公報より引用

上記の登録商標は全てお酒関係の商標権であり、権利範囲は重複しています。

商標の一部分のみ権利化しておけば、他社がこちらの登録商標の一部を利用するのを防止できるか、というとそうでもないです。

上記の例では、登録商標「あいらぶ/I IOVE」(商標登録第5660539号)が登録された後に、「I LOVE文具(ハートマーク付き)」(商標登録第5873318号)とか、「I LOVE ITALY」(国際商標登録第1111713号)が並列して登録されてしまっています。

地名や商品名を追加すると登録できるのか?

上記の例をみて、「あれっ?」と感じた方もおおいはずです。

というのは、一般的にいって登録商標に地名や単純な商品名を付けたとしても登録できないと感じるからです。

仮に地名や単純な商品名を付けることにより特許庁の審査を突破できるなら、例えば、「SONY神戸」とか「Panasonic梅田」などの商標を自由に登録できることになってしまいます。

もちろん、「SONY神戸」とか「Panasonic梅田」などの商標は関係者以外は自由に使えませんし、(仮に商標権が存在しない場合でも)実際に特許庁に出願したら、確実に審査で落ちます。

これには理由があって、「SONY」とか「Panasonic」は強い商標であり、自他商品役務の識別力が高い商標です。「SONY」とか「Panasonic」とかに地名の「神戸」や「梅田」等の誰も使える表記を付け加えたとしても、元の商標と差別化することは不可能です。

これに対し、上記の「あいらぶ」は、弱い商標であり、自他商品役務の識別力が低い商標です。

弱い商標の場合は識別力が弱いですから、「あいらぶ」の商標に違う語句を付け加えるだけで、もとの弱い商標と違うと判断されてしまいます。

弱い商標とは、誰もが使えるありふれた商標のことで、上記の登録商標「あいらぶ/I IOVE」は弱い商標に近いということです。

ありふれた表記に幅広い権利範囲を認めると、自由な表現が制限されるため社会的な混乱が生じます。これを防ぐために、ありふれた表記に近い登録商標の範囲は、比較的狭く解釈されます。

上記のアイラブ関係の商標群は、それぞれに認められる権利範囲が極めて狭いのです。弱い商標に単純な語句を追加すれば、それぞれが互いに類似しないものとして扱われ、どんどん別の商標として登録されてしまう、ということです。

もちろん、弱い商標の場合は単純な語句を追加した商標同士は互いに非類似であり、商標権の範囲にはふくまれません。

結果的に、「I LOVE」の表記を押さえたとしても、単純な語句を追加さえすれば、簡単に商標権の権利範囲をすり抜けられることを意味します。

(3)商標の中でワイルドカードを定義するのはどうか?

それでは着眼点を変えて、商標の中でワイルドカードを定義する、というのはどうでしょうか。

例えば、商標として「I LOVE(ここには任意の文字・記号を含んでもよい)」と実際に願書に記載して出願した場合、特許庁ではこの商標をどのように扱うでしょうか。

残念ながら商標法はアイデアを保護する制度ではありません。この結果、仮に登録商標の中にワイルドカードが含まれる旨を記載した場合とか、任意の文字列などに置き換えてもよいとの宣言を記載した場合、これらの表記そのものが商標権として保護はされます。

しかしその内容は一切考慮されません。

仮に「I LOVE(ここには任意の文字・記号を含んでもよい)」との商標が審査に合格して商標権が生じたとしても、「I LOVE(ここには任意の文字・記号を含んでもよい)」との表記をそっくりそのまま再現することが制限されるだけです。「I LOVE TOKYO」等の別の商標に権利がおよばないことはいうまでもありません。

(4)まとめ

結局、商標登録でワイルドカードを使って商標権の取得を目指したとしても、期待する結果は得られないです。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」、ということですね。

ではワイルドカード的な商標が認められないなら、商標登録する意味はないのか、というと、そうでもありません。

一つの商標に多義的な意味をもたせようとする点にこだわるから失敗するのであって、工夫すれば簡単に問題を解決できます。

核となる商標を登録する

おもいつくまま、あれもこれも商標登録すると費用ばかりが高騰します。これを避けるため、まずは上位ブランドを考え、この上位ブランドのみを登録します。

核となる商標には説明語句を追加しない

さらに注意点があります。上位ブランドには説明語句を入れない、ということです。

仮に核となる商標の中に地名「東京」の文字とか内容「高品質」等の表記を盛り込むと、結果として商標全体の権利範囲がせまくなり、似たような商標を他社に商標登録されてしまいます。

これを避けるために、核となる商標、つまり上位概念のブランドには説明語句は一切いれない、という方針でいきます。

説明や商品群の使い分けは、核となる商標中ではせずに、商品の説明書きで行います。

例えば、核となる商標として「ベンザ」を選択し、銀色のパッケージはのどが痛い人用の風邪薬、青色のパッケージは熱が出た人用の風邪薬として使い分けるのです。

商標の中に「喉が痛い人用のベンザ」とか、「熱が出た人用のベンザ」等の説明語句を組み入れるのは避けます。

商標の中に説明語句を入れるのは作戦としては最低です。

核となる商標に弱い商標を選ばない

弱い商標とは、商品説明や業務説明そのままでひねりがない商標のことです。例えば「ダンス教室」とか「引越サービス」等が弱い商標の一例です。

このような弱い商標を最初に選ぶと、(仮に商標登録に成功できたとしても)簡単な語句を追加するだけで商標権の範囲を簡単にすり抜けられてしまいます。

商標登録の本質は自己の業務に使う商標を守ること

他人に商標を使わせたくない、と考えると際限なく登録しなければならない商標が増加します。

そうではなくて、自分が使用する商標を登録するのです。そうすれば、登録する商標は最小限で済みます。
どの商標を登録するか、じっくり考えてみてくださいね。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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