商標は水産資源保護の力になれますか〜「養殖」と「商標」

近年、水産資源の枯渇が問題になっています。特に昔から魚を食べてきた我々日本人にとってはこれは大きな問題です。そしてこの状況を反映するかのように、ここ20年くらいで漁業生産量に占める養殖の割合が激増してきているのです。そこで今回は、育てる漁業である「養殖」に商標の観点から迫ってみたいと思います。

商標は水産資源保護の力になれますか

ファーイースト国際特許事務所の弁理士・弁護士

1.世界の水産資源の状況は?

FAOは世界の海洋水産資源の状況をまとめています。これによれば、生物学的に持続可能なレベルで漁獲されている資源の割合は漸減傾向にあります。昭和49(1974)年には90%の水産資源が適正水準又はそれ以下の低・未利用の水準で利用されていましたが、平成25(2013)年にはその割合は69%まで下がってきています。反対に、過剰に利用されている資源の割合は、10%から31%まで増加しています。また、平成25(2013)年時点で、世界の資源のうち、適正レベルの上限まで漁獲されている資源は58%、低・未利用状態であり生産量を増大させる余地のある資源は11%となっています。
資源状況は海域によっても異なります。FAOによれば、地中海及び黒海、南西大西洋、中西部及び中東部大西洋等の海域においては、適正レベル以下まで減少した資源が4割以上を占め、資源の枯渇が深刻です。しかしながら、資源管理の強化により、回復しつつある資源も一部にはみられます。我が国周辺水域を含む北西太平洋海域では、24%が生物学的に持続不可能、76%が持続可能な資源状態にあると評価されています。
(平成28年度 水産白書より引用)

FAOとは「国際連合食糧農業機関」という国連専門機関のひとつで、毎年「世界漁業・養殖業白書」を出しています。

水産白書によると、水産資源の現状は「まだまだ獲る量を増やしても大丈夫」「これ以上は獲る量を増やせないが限界は超えていない」種類が減り、「限界超え若しくは枯渇」の種類が増えてきていると言えるでしょう。

2.養殖のあれこれ

(1)養殖界のスター「近大マグロ」

水産資源の養殖と聞いて真っ先に思いつくのは「近大マグロ」ではないでしょうか。

近大マグロの文字登録商標
(特許庁の商標公報より引用)

  • 商標登録第4933272号
  • 権利者:学校法人近畿大学
  • 出願日:2005年6月24日
  • 登録日:2006年3月3日
  • 指定商品:
    第29類「まぐろ(生きているものを除く。),まぐろの加工水産物,まぐろを主原材料とする粉末状・顆粒状・錠剤状・カプセル状・液状・ゼリー状・棒状・板状・ペースト状又はチュアブル状の加工食品,まぐろを主材料とする惣菜,まぐろ入り油揚げ,まぐろ入りカレー・シチュー又はスープのもと,まぐろ入りふりかけ,まぐろを主原材料とする食用たんぱく」
    第31類「まぐろ(生きているものに限る。),まぐろ(食用のものを除く。),まぐろを主原材料とする飼料,まぐろを主原材料とする飼料添加物(医療用のものを除く。),まぐろを主原材料とする飼料用たんぱく」

マーク付き近大マグロの登録商標
(特許庁の商標公報より引用)

  • 商標登録第5778366号
  • 権利者:学校法人近畿大学
  • 出願日:2015年2月9日
  • 登録日:2015年7月10日
  • 指定商品:
    第 5類「まぐろを主原料とする粉末状・顆粒状・錠剤状・カプセル状・液状・ゼリー状・棒状・板状・ペースト状又はチュアブル状の加工食品」
    第29類「まぐろ(生きているものを除く。),まぐろの加工水産物,まぐろを主材料とする惣菜,まぐろ入り油揚げ,まぐろ入りカレー・シチュー又はスープのもと,まぐろ入りふりかけ,まぐろを主原材料とする食用たんぱく」
    第31類「まぐろ(生きているものに限る。),まぐろ(食用のものを除く。),まぐろを主原材料とする飼料,まぐろを主原材料とする飼料添加物(医療用及び栄養補助用のものを除く。),まぐろを主原材料とする飼料用たんぱく」

なんと近畿大学がクロマグロの完全養殖の研究に着手したのは今から40年以上前の1970年だそう。

この「完全養殖」とは、天然の稚魚を捕獲→育てて採卵→人工ふ化→人工ふ化の魚から採卵→人工ふ化のサイクルで行う養殖です。

マグロは体の構造上、常に泳いでいなければ呼吸もできず沈んでしまう魚です。また大きな見た目に反してとてもデリケートで、車のライトにビックリして生け簀の網に激突したり、特に稚魚は人の手でふれた程度でも命に関わるくらいです。

このようにとても繊細な魚ですので、クロマグロの完全養殖は2002年の成功までに32年もかかるほど大変困難な事業なのです。

また近畿大学はマグロだけでなく「マダイ」や「クエ」といった様々な水産資源の養殖に力を入れています。

<参照>
近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所サイト「近大養殖魚図鑑」
http://kindaifish.com/ picture_book.html

(2)養殖の問題点と陸上養殖

(2-1)自家汚染

しかし養殖には問題点もあります。

まず、養殖は閉じられた生け簀で行うため、食べ残しの餌や魚や貝の排泄物などが溜まっていくことで、生け簀内の環境が悪化し、育てている魚や貝を死に追いやってしまうような自体を引き起こす「自家汚染」という問題があります。

また海に作った生け簀の場合、生活排水等で海自体が汚染されると、当然生け簀内の水質にも影響が出てしまいます。例えばノロウイルスが含まれた排水が流れ込むと、育てているカキが排水からウイルスを体内に取り込んでしまい、そのカキを購入した人が感染してしまう可能性もあるのです。

そこで考えられたのが「陸上養殖」です。簡単に言うと「生け簀ごと陸上に持っていって養殖しよう!」という方法です。

なお「陸上養殖」には、天然の環境からの海水等の引き込みと排水を繰り返す「かけ流し式」と、ろ過した水を循環させ基本的に排水はしない「閉鎖循環式」があるそうです。

(2-2)「お嬢」と「ボンボン」

これらは西日本旅客鉄道株式会社(以下JR西日本)の登録商標です。

いずれもJR西日本が取り組んでいる「陸上養殖」で生産した水産資源に付けられています。

「お嬢サバ」
  • 商標登録第5800222号
  • 権利者:西日本旅客鉄道株式会社
  • 出願日:2015年6月5日
  • 登録日:2015年10月16日
  • 指定商品・役務:
    第29類「さば(生きているものを除く。),さばの加工水産物,さばを主原料とする加工水産物,さばを主材とする惣菜,さば入り油揚げ,さば入りカレー・シチュー又はスープのもと,さば入りふりかけ,さば入り食用たんぱく」
    第30類「さばすし,さば入り弁当,さば入りぎょうざ,さば入りしゅうまい,さば入り菓子,さば入りパン,さば入りサンドイッチ,さば入り中華まんじゅう,さば入りハンバーガー,さば入りピザ,さば入りホットドッグ,さば入りミートパイ」
    第31類「さば(生きているものに限る。),さば(食用のものを除く。),さばを主原料とする飼料,さば用飼料,さばを主原料とする飼料用たんぱく」
    第43類「飲食物の提供,飲食物に関する情報の提供」

このサバは、地層によってろ過された地下海水を使って陸上養殖することにより、寄生虫がつきにくく生でも食べられることが特徴です。安心して生食ができるとメニューの幅が広がり、今まで使われていなかったジャンルの料理でも採用されるかもしれませんね。

大切に育てられたサバということから、「お嬢様」とかけたネーミングになっています。

<参照>
JR西日本サイト
「お嬢サバ」の概要
http://www.westjr.co.jp/ press/article/items/170228_00_saba.pdf

「オイスターぼんぼん」
  • 商標登録第5958523号
  • 権利者:西日本旅客鉄道株式会社
  • 出願日:2016年11月10日
  • 登録日:2017年6月23日
  • 指定商品・役務:
    第29類「牡蠣(生きているものを除く。),牡蠣の加工水産物,牡蠣を主原料とする加工水産物,牡蠣を主とする鍋料理用詰め合わせ材料,牡蠣フライ,牡蠣のつくだに,干し牡蠣,牡蠣入りカレー・シチュー又はスープのもと,牡蠣ご飯の具,牡蠣を主材とする惣菜,牡蠣入りふりかけ,牡蠣風味のお茶漬けのり,牡蠣入り食用たんぱく,牡蠣入り油揚げ,牡蠣入り凍り豆腐,牡蠣入りこんにゃく,牡蠣入り豆腐」
    第30類「牡蠣入り菓子,牡蠣入りパン,牡蠣フライ入りサンドイッチ,牡蠣入り中華まんじゅう,牡蠣入りハンバーガー,牡蠣入りピザ,牡蠣入りホットドッグ,牡蠣入りミートパイ,牡蠣入りパイ,オイスターソース,牡蠣入り調味料,牡蠣入りぎょうざ,牡蠣入りしゅうまい,牡蠣入りすし,牡蠣入りたこ焼き,牡蠣入り弁当,牡蠣入りラビオリ,牡蠣入りお好み焼き,牡蠣入りパスタソース,牡蠣入りアイスクリームのもと,牡蠣入りシャーベットのもと,牡蠣入り香辛料,牡蠣入り食用グルテン」
    第31類「牡蠣(生きているものに限る。),牡蠣用飼料,牡蠣を主原料とする飼料,牡蠣を主原料とする飼料用たんぱく,牡蠣(食用のものを除く。)」
    第43類「飲食物の提供,飲食物に関する情報の提供」

このカキは、広島県の塩田跡で地下海水を使って陸上養殖されています。これによりノロウイルスの影響が少なく生でも食べられ、また地下海水には植物プランクトンが豊富に含まれることから、通常よりも早く出荷できることが特徴です。

カキは特に食中毒が心配される食品ですから、生で安心して食べられるというのは大きなメリットですね。

こちらも「一度も外(=海)に出ない」ことから「お坊ちゃま」をイメージする名前が付けられました。

<参照>
JR西日本サイト
「オイスターぼんぼん」の概要
http://www.westjr.co.jp/ press/article/items/171130_00_bonbon_2.pdf

このように「養殖」には、天然の水産資源を守るだけでなく、新たな価値をプラスした水産資源を生産できる面もあるのです。

3.まとめ

水産資源を守り後世まで豊かな海を残していくために努力している方たちがたくさんいらっしゃることが分かりました。

もちろん養殖だけで水産資源の枯渇問題が解消するわけではありません。また養殖自体にも解決すべき課題は残っています。しかし水産資源の保護に一役買っていることは間違いありません。

一人ひとりはできることはわずかかもしれませんが、いつまでも食卓に魚や貝が乗る暮らしができるように心がけたいですね。

それではまた。

ファーイースト国際特許事務所
弁理士 杉本 明子
03-6667-0247

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