時事通信より新・東京五輪エンブレムで取材

索引

(1)新・東京オリンピックロゴは大丈夫?

昨年2015年、東京五輪エンブレムがデザイン上の問題で撤回された経緯がありました。今回、東京オリンピックのロゴマークが新たに選出されなおされましたが、今回の新・東京五輪エンブレムは大丈夫なのでしょうか。

問題点について順番に解説します。

新たに選出された東京2020大会エンブレム

エンブレム名称:組市松紋(くみいちまつもん)
制 作 者  :野老 朝雄(ところ あさお)

昨年の佐野研二郎氏による東京五輪エンブレムの場合は、構成要素が丸や四角形等の単純な図形を配置して構成されていました。
これに対して今回の新・東京五輪エンブレムの場合は、構成要素は四角形なのですが、数多くの四角形が複雑に組み合わされて構成されています。

それぞれの構成からみると、意図的に模倣したかどうかはともかくとして、昨年の佐野研二郎氏の作品はシンプルであるがゆえに、既存のデザインと衝突する可能性が高くなります。

これに対して今回の新・東京五輪エンブレムの場合は構成が複雑ですので、偶発的に既存のデザインと衝突する可能性は低くなります。

(2)新・エンブレムは一応権利手続完了か

報道によれば、新・東京五輪エンブレムについて公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、「組織委員会」と略)は問題がないか事前調査済みとのことです。

また、昨年の撤回された東京オリンピックのロゴマークについても、昨年7月の発表直前に、日本の特許庁に商標登録出願の手続がなされています。

組織委員会による、撤回された東京オリンピックのロゴマークの商標登録出願

  1. 商願2015-070541(商標登録出願日:2015年7月23日)
  2. 商願2015-070542(商標登録出願日:2015年7月23日)
  3. 商願2015-070543(商標登録出願日:2015年7月23日)

撤回されたとはいえ、他人による横取り権利申請を防ぐために、組織委員会は公式発表前の昨年の時点で権利申請手続を完了させています。

このような経緯から組織委員会は今回の新・東京五輪エンブレムについても日本に商標登録出願の申請手続きを完結させているはずです。この期に及んで権利申請手続を失念するなど、あり得ないことです。

実際に組織委員会が今回の新・東京五輪エンブレムについて商標登録出願手続を完了させたかどうかは一定期間が経過しなければ分かりません。特許庁に商標の権利申請手続をしても、その内容は公開されているデータベースに即日反映されるわけではないからです。

ところが「調査したけれども問題となるデザインは発見されなかった」、「新・東京五輪エンブレムについては商標登録出願を完了している」という場合であっても問題が発生する場合はあります。

(3)今後各国の権利化段階で問題発生の可能性も

今回の新・東京五輪エンブレムは複雑な構成のデザインのため、たまたま他の作品のデザインと似ていたという可能性は低いでしょう。

ただし事前に調査は完了したといっても世界中にあるありとあらゆるデザインを調べ尽くすことは不可能です。調査可能なデータベースに収録されていないデザインも存在するからです。

昨年の東京オリンピックのロゴマークについては調査済みとのことでしたが、実際には問題がこれでもかと発生しました。

さらに日本で問題が生じるような他人のデザインが存在しない場合であっても、外国で問題が発生する可能性もあります。

というのは外国における商標登録の手続きは、それぞれの国の事情に基づいて、国ごとに審査されるからです。一応国際商標登録制度は準備されていますが、これは各国に対する「申請手続」が統一されているだけで、審査に関しては各国特許庁の判断に個別に委ねられています。

このため日本で無事権利化手続きが完了して商標権が発生したとしても、他の国で商標権が得られるとは限らないのです。

海外で権利化できないことを防ぐために外国で商標登録手続を事前に完結させておけば完璧です。

ところが新・東京五輪エンブレムの権利整備が完了してから新・東京五輪エンブレムを世間に発表すると、審査過程が不透明とか、密室談義とかいって国民から叩かれることになります。

特に昨年の東京オリンピックのロゴマーク撤回に伴い、商標登録されるロゴマークの選考過程を透明化させるとの課題を組織委員会側は背負っています。

発表前に権利を固めてしまうと選考過程が不透明であるとして叩かれるし、発表後に権利申請すると第三者により海外で権利を食いちぎられる可能性があるし、組織委員会側としては対応は容易ではないです。

(4)新・東京五輪エンブレムは条約上の優先権で保護されています

今回のように、外国で商標権を取得する前に新・東京五輪エンブレムを発表したことにより、外国で先に新・東京五輪エンブレムを出願されてしまう可能性もあります。

ところが日本は商標の保護に関するパリ条約などの国際条約に加盟しているので、主要国のほぼ全てが加盟している条約上の保護を受けることができます。

新・東京五輪エンブレムについては、日本の最初の出願から半年間は、外国においても横取り出願を排除できる優先権があります。

権利乗っ取りを企む外国の不正集団は、最終的には日本の組織委員会側が権利を掌握する結論になることが分かった上で、徹底的に組織委員会側の権利化を阻止しようとする可能性があります。

海外不正集団の狙いは「時間切れ」です。今回のように、外国で商標権を取得する前に新・東京五輪エンブレムを発表したことにより、外国で先に新・東京五輪エンブレムを出願されてしまう可能性もあります。

新・東京五輪エンブレムについては、日本の最初の出願から半年間は、外国であっても横取り出願を排除できる優先権がありますので、不正集団が権利を取得することを防止できます。

ただしこれは理論上の保護の話であって、実務上は違います。

権利乗っ取りを企む外国の不正集団は、最終的には日本の組織委員会側が権利を掌握する結論になることが分かった上で、徹底的に組織委員会側の権利化を阻止しようとして粘ってくる可能性があります。

海外不正集団の狙いは「時間切れ」です。商標権が成立するかどうかが不透明ではスポンサー側も組織委員会と契約してよいかどうか分からないからです。

海外不正集団は組織委員会側がタイムアウトで息切れして、金銭で解決しようとするところまで組織委員会を追い込もうとする可能性があります。

仮にこのような不正集団による不正行為が実際にあったとしたら、これはもう組織委員会と不正集団との争いというよりも、日本国に対する攻撃があったといってもよいでしょう。もしかすると今後オールジャパンの力を結集して、不正行為を封じ込めなければならない場面があるかも知れません。そのようなことがないように、今は祈るばかりです。

私のコメントは平成28年4月26日付の時事通信のニュースで配信されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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