たこ焼き「くくる」の商標権問題でTBSグッとラック!でコメント

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(1)商標「くくる」の商標権はどうなっているのか

くくる関係の商標は1997年から取られている

たこ焼きチェーン店を全国で多数展開する白ハト食品工業が、複数の飲食業者にくくる関係の商標を使わないよう警告書を送付していたことが報道されています。

商標権侵害を止めてもらうためには、権利の根拠となる商標権が存在すること、その権利者が正当権利者であること、権利侵害の事実があったこと等が必要です。

白ハト食品工業は、複数のくくる関係の商標権を保有しています。代表例を示すと次の通りです(下記以外にも複数の権利が存在します)。

(1) 道頓堀 くくる たこ家

くくる登録商標第4041825号
特許庁発行の商標公報データより引用

  • 登録商標:道頓堀 くくる たこ家
  • 登録番号:第4041825号
  • 登録日:平成9(1997)年 8月 15日
  • 権利者:白ハト食品工業株式会社
  • 権利範囲:飲食物の提供のイートイン関連
  • ステータス:審査合格・権利発生

(2) くくる

くくる登録商標第4419317号
特許庁発行の商標公報データより引用

  • 登録商標:くくる
  • 登録番号:第4419317号
  • 登録日:平成12(2000)年 9月 22日
  • 権利者:白ハト食品工業株式会社
  • 権利範囲:たこ焼き等のテイクアウト関連
  • ステータス:審査合格・権利発生

(3) 道頓堀 くくる たこ家

くくる登録商標第5421130号
特許庁発行の商標公報データより引用

  • 登録商標:道頓堀 くくる たこ家
  • 登録番号:第5421130号
  • 登録日:平成23(2011)年 6月 24日
  • 権利者:白ハト食品工業株式会社
  • 権利範囲:たこ焼き等のテイクアウト関連、飲食物の提供のイートイン関連
  • ステータス:審査合格・権利発生

(4) くくる

  • 出願商標:くくる
  • 出願番号:商願2019-111951
  • 出願日:令和1(2019)年 8月 21日
  • 権利者:白ハト食品工業株式会社
  • 権利範囲:たこ焼き等のテイクアウト関連、飲食品の小売関連、飲食物の提供のイートイン関連
  • ステータス:審査中

(5) KUKURU

  • 出願商標:KUKURU
  • 出願番号:商願2019-111952
  • 出願日:令和1(2019)年 8月 21日
  • 権利者:白ハト食品工業株式会社
  • 権利範囲:たこ焼き等のテイクアウト関連、飲食品の小売関連、飲食物の提供のイートイン関連
  • ステータス:審査中

上記の通り、白ハト食品工業は複数のくくる関連の商標権を保有しています。

また今年の8月には文字だけで、図形要素や地名などが含まれていない、「くくる」や「KUKURU」だけの商標も出願しています。

商標権は、同じ読み方の商標を権利範囲に含みます。

このため、「くくる」と読むことができる商標を使っている飲食関連業者の方は権利侵害になる可能性があります。

あえて文字だけの商標を出願したのは、警告を受けた側からくると予想される「うちの看板には道頓堀等のくくる以外の文字や図形が入っていないので権利侵害にはならない」、等の言い訳を、前もって封じるためと考えられます。

白ハト食品工業の警告は正当なものか?

商標権の権利は土地の権利と同じと考えてください。
土地には私有地と共有地(公園など)があります。
つまり商標には自由に使えるものと使えないものがあります。

今回の場合は、
こちらの私有地に無断で車を停めないでください(差止請求)
私有地にこれまで停めていた車の駐車料金を払ってください(損害賠償請求)

という場合と同じです。

白ハト食品は食品関係について「くくる」関連の商標権を持っています。商標権侵害になるような行為は止めてください、というのは、正当な権利行使になります。

(2)たこ焼きと焼き鳥・居酒屋は違うのでは?

たこ焼き業者が、他の飲食業者に警告できるのか

飲食関連の商標権には、大きく、テイクアウト(商品)の権利と、イートイン(役務・・・サービスといいます)の権利があります。

商標登録される際に、「飲食物の提供」とのイートインの形で権利が取られています。
商標権に含まれる「飲食物の提供」は、たこ焼きのイートインだけに限られず、イートインを行う業者全般にかかります。

商標権者が実際に行っている業務以外に、その業務に類似する業務にも権利が及びます。

たこ焼きに関する飲食物の提供業務と、焼き鳥、居酒屋、沖縄料理等の飲食物の提供業務は同じではありませんが、商標法上は似ている業務として扱われます。

そして、似ている業務にも商標権の効力が及ぶとの規定が商標法にあります(商標法第37条第1項第1号)。

大手が、中小企業や個人事業者を訴えることはできるのか

商標法上は、権利行使の前提として、会社の規模が問われる規定は存在しません。商標権者であれば、商標権を侵害する者に対して裁判に訴えることができます。

また民事裁判以外にも刑事罰の適用を求めることもできます。

商標権の侵害者に対して、懲役10年以下の懲役刑、1000万円以下の罰金、法人なら3億円以下の罰金がかかる場合があります(商標法第78条等)。

(3)先使用権は認められるのか?

くくるの商標を以前から使っているので、先使用権が認められるのでは、と考える方も多いと思います。

先使用権は、形式上は商標権の侵害になる場合であっても、例外的に、先に商標を使用した実績が認められて、これまで使い続けてきた商標を継続して使うことのできる権利です。

ただ、先使用権には問題があります。

先使用権を主張するのは権利侵害が前提

先使用権は、専門的には抗弁権と言われます。この抗弁権は、商標権の侵害があることを当事者同士が認めた前提で成り立ちます。

そもそも商標権の侵害の事実がなければ、先使用権を主張する必要がないからです。

つまり、先使用権を持ち出した段階で、商標権の侵害の事実を認めたも同然です。
このため、先使用権の主張は、最後の切り札に近いものがあります。

先使用権の適用には、相手の出願前に商標を有名にした実績が必要

また先使用権の適用には条件があります。それは相手の商標登録出願以前に、その商標を有名にした実績があることが求められます。

誰に聞いても、みんながああ、その店なら知っている、という程度の認知度が必要です。
過去から使い始めて、今でも使っている、というだけでは先使用権が認められる可能性は、ほぼ、ないです。

先使用権が認められるかどうかは、実際の裁判の中で決まる

先使用権は、裁判所における商標権侵害裁判で、当事者同士の意見を裁判所が聞いた上で、証拠に基づいて判断されます。

このため先使用権を主張して回避する、というのは、裁判を受けて立つことが前提になります。

(4)商標権侵害の警告を受けた場合の対抗措置は?

商標権侵害の警告を受けた場合の措置は種々あります。これらの中で現実的に納得のいく路線を探して判断することになります。

相手の商標権を買い取る

商標権は他人に対して有償で移転できます。このため、商標権自体を売買することができます。
「ソニー」や「パナソニック」の商標権も、「くくる」の商標権も、権利区分単位が同じなら、同じ料金で商標権を取得できます。

ただ、うん億円のレベルでは、「ソニー」や「パナソニック」の商標権をこちらに売ってくれないことは容易に想像できます。

もし売ってくれれば、毎年売り上げの数%を、これからずっと永遠に(更新を忘れない限り)何もしなくても貰えます。ですが、これが実現することはまずないです。

くくる関連の商標権を買い取る話になれば、売る側の提示する値段と、買い取る側が考える値段には、おそらく、ケタが全くことなることになると思います。

争いが生じてから商標権を買い取りに動くことは、現実的ではありません。

権利をライセンスしてもらう

商標権は土地の権利と同じ性質をもっていて、他人に貸してライセンス料をもらうこともできます。土地の月極賃料と同じと考えることができます。

ただし、ライセンス契約を結ぶとなれば、その商標を使い続ける限り、売り上げの数%を、これから未来永劫払い続けることになります。

薄利多売の飲食業界では、売り上げの数%も他人から求められたら、営業そのものが成り立たないところが多いです。

このため権利をライセンスしてもらうのも、あまり現実的ではないかもしれません。

話し合いで解決する

当事者同士で話合いをして、解決する、という方法もあります。

基本的には、商標権者は、商標権を侵害した者から、過去3年分の利益を損害賠償額として請求する権利をもっています。損害賠償額は、商品の利益額とその商品の販売個数の3年分とすることもできるし、ライセンス料相当額とすることもできます(商標法第38条)。

この損害賠償額は、あくまで過去の行為に対するものです。損害賠償額を満額支払ったとしても、これからの商標の使用を商標権者が認めてくれるかどうかは全て話合い次第です。

また、話し合いで解決できたとしても、商標権者にならない限り、手元には何も残りません。
これからも商標権者に事業の首元を握られた状態が続くことになります。

商標を変更して出直す

ここは意見が分かれるところです。

話し合いで解決できないなら裁判もありうる。商標を変更したら負けを認めたことになる、とアドバイスする専門家もいます。

逆に今後の費用負担や裁判費用などを考慮すると、別の商標で出直すことを検討すべき、とアドバイスする専門家もいます。

どの専門家を採用するかは、最終的には、いろいろな意見を聞いた上で、専門家を採用する方が決定します。

私の場合は、全てのクライアントに、「戦って勝つのは下策、戦わずして勝つことこそ上策」、とアドバイスしています。

(5)まとめ

商標権侵害の問題解決の難しさは、法律論ではなく、感情論にあります。

この商標を大切にして、これまで頑張って営業してきた。その商標を変更せよ、と他人にいわれても納得できない。

これまで自分を信用して付いてきてくれたお客さまを裏切るような行為はできない。徹底抗戦あるのみ。

その気持ちもよく分かります。私はだれよりも多くの方々のその意見を聞いてきました。

ただ、あえていいます。
こうは考えることはできないでしょうか。

今までは今着ている服がちょうどよかった。でも体がだんだん成長しきて、今まで着てきた服ではサイズが合わなくなった。

また新たな成長のために、服を着替える時期にきている。
新たな装いで、新たな一歩を踏み出すことはできないか。

そのように考えることはできないでしょうか。

商標権者は、訴えても利益の出ない相手を訴えることは少ないです。
商標権者からの侵害警告がきた、ということは、商標権者の目にとまるレベルまできている、ということです。

侵害警告を受けた本人はそうとは考えないと思いますが、商売のレベルがそこそこのレベルに達してきた、ということでもあるのです。

商標権を侵害している状況では、もがけばもがくほど、深みにはまります。そして出費が膨らみます。

我々はビジネスをしています。どう判断していくかは、あくまで投資に対するリターンの中で判断していきます。

感情に流されて争っていては、将来に向かって損が膨らむばかりです。

将来に進むに従って、より有利になる道はどの道なのか。
そのことを冷静に考えることから始めることが大切です。

私のコメントは、2019年10月23日のTBS「グッとラック!」で放送されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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