朝日新聞より「フランク三浦」のパロディ商標判決で取材

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索引

  1. パロディ商標「フランク三浦」は許される?
  2. 知財高裁はパロディ商標を認めたのか?
  3. 今後のパロディ商標のゆくえ
  4. パロディ商標であっても制限はあります

(1)パロディ商標「フランク三浦」は許される?

平成28年(2016年)4月12日に、知財高裁で商標「フランク三浦」についての判決がありました。事件の経緯は次の通りです。

パロディ商標「フランク三浦」についての商標登録の経緯

  1. 出 願 日 :2012年3月27日(権利申請)
  2. 登録査定  :2012年7月31日(審査合格)
  3. 登 録 日 :2012年8月24日(商標権発生)登録番号:商標登録第5517482号
  4. 無効審判請求:2015年4月22日(商標登録の無効を請求)
  5. 審 決 日 :2015年9月24日(商標登録を無効とする審決)
  6. 不服申立  :平成27(行ケ)10219(知財高裁に無効不服申立)
  7. 審決取消  :2016年4月12日(商標登録の無効審決を取り消す)

上記の通り、今回のパロディ商標「フランク三浦」と超高級時計「フランクミュラー」との争いは、パロディ商標「フランク三浦」についての特許庁における商標登録が無効か有効かを争うものです。この結果、今回知財高裁において、「商標登録は無効ではない」、つまり、パロディ商標「フランク三浦」の存在を認める、という判断がなされた、ということです。

通常は、有名商標側がパロディ商標側を訴える構図になるのですが、今回は、パロディ商標「フランク三浦」側が知財高裁の裁判に訴えて、勝訴判決を得た結果になっています。

ちなみにこれまでの特許庁の審判における審決例や裁判所における判決例でも、「パロディなら許される」とか「パロディだから許されない」とかの、パロディそのものであることを直接の理由に取り上げて判断された事例はありません。

パロディ以外の事例と同様、既存の法令・裁判例に則って商標登録してよかったかどうか、あるいは販売品が侵害品に該当するのかどうかの判断がなされてきました。

その判断の一つの形の中に「パロディ」の形が含まれます。「パロディ」かどうかは議論の中心にはならず、問題となる程度に対比する商標同士が似ているかだけが通常は判断されます。

(2)知財高裁はパロディ商標を認めたのか?

今回の知財高裁の判決はパロディ商標が許されるかどうかを判断したものではありません。実際、今回の判決文においても、

「(フランク三浦の商標が法令に違反するかどうかは)飽くまで本件商標が法律の要件を満たすかどうかによって判断されるべきものであり,原告商品が被告商品のパロディに該当するか否かによって判断されるものではない。」知財高裁:平成27(行ケ)10219

と断じています。

そもそも本家本元のフランクミュラー側が「フランク三浦側がパロディであることを認めているので、フランク三浦側は本家本元のフランクミュラー側の時計を模倣していると認識している」との旨の主張に対して知財高裁はこれを否定しているわけです。

この結果、「パロディだからダメでしょ?(本家本元のフランクミュラー)」→「いや、パロディであるかどうかは関係がない(知財高裁)」・・・という流れの中で、結論として「パロディ商標」が認められる結果になっています。

なんともおもしろい裁判結果だと思います。

さらに論理的に突き詰めると、そもそもパロディ商標「フランク三浦」の商標登録の際には「高級時計は権利範囲から除く」とか、「安物の時計に限定する」とかの時計についての限定が付けられているわけではありません。

限定がないからこそ、理論上はパロディ商標「フランク三浦」を高級時計にも、ばったモンの時計にも使用することができるわけです。

だから知財高裁で「高級時計」か「ばったもんの時計」かの点について争われること自体を奇異に感じる人もきっと多いと思います。今回の知財高裁の判決は、侵害訴訟についての判断ではなく、あくまで登録商標「フランク三浦」の商標登録に法令上の間違いがあったかどうかが争点となるべきだからです。

登録商標が時計に実際にどう使われるかの問題と、商標登録が間違っていたかどうかの問題は直接の接点はありません。登録商標が時計に実際にどう使われるかは、もっぱら特許庁の判断(査定・審決)が終わった後の話であるのに対し、商標登録が間違っていたかどうかは、特許庁の判断時点(査定・審決時)の話だからです。実際、商標登録の際の権利申請書面には、登録商標が時計に実際にどう使われるかについて記載する欄がそもそも存在しないです。

ですので、登録商標が時計に実際にどう使われるかまで踏み込んだ判断が知財高裁でされる理由が分からない、と感じるのはそれはそれで正しい感覚だと思います。

それにも関わらず、知財高裁がパロディ商標「フランク三浦」の時計に対する使われ方に言及しているのは、本家本元のフランクミュラー側がパロディ商標「フランク三浦」の法令違反を主張する際に、登録商標の実際の使われ方に言及したためです。

本家本元のフランクミュラー側に対する知財高裁の応答の結果として、パロディ商標「フランク三浦」の時計に対する使われ方にまで言及があった形になっています。

本家本元のフランクミュラー側としては、パンチングボールを叩いたら、反動で返ってきたパンチングボールで顔面を殴られたといった形になっています。

高級ブランドを防衛する側からみれば、何とも戦いにくい流れになっています。

(3)今後のパロディ商標のゆくえ

商標登録が有効か無効かを法律上純粋に扱った場合、知財高裁が最初に示した通り、原告商品が被告商品のパロディに該当するかは判断されないことになります。

この反面、実際の判決の結論においてパロディ商標が認められるかどうかが一応は判断される形になった結果、より一般国民のもつ感覚に近い判断に落ち着いた、ということができます。

一方では、「フランク三浦」と「フランク ミュラー」とは称呼(口ずさんだ場合の音感)が共通しているから、両者は似ていて商標登録は無効だ、という結論に落ち着く道筋もありました。

この反面、パロディ商標「フランク三浦」は、いわば時計のおもちゃとの位置付けであり、本家本元の「フランク ミュラー」は、時計の機能を超越した、宝石のような価値のあるものの位置付けであり、両者は全く共通点がないから、商標登録を無効としなくても実害はない、ということもできます。

パロディ商標「フランク三浦」が使われている時計を購入する人は、おそらく「フランク ミュラー」の時計を購入することはないし、その逆に、「フランク ミュラー」の時計を購入する人は、パロディ商標「フランク三浦」が使われている時計を購入することはないでしょう。

つまり、両者の間では、完全に購入層が分離していて、一方の時計の販売が他方の時計の販売に全く影響を与えない関係になっています。

この、パロディ商標「フランク三浦」と本家本元の「フランク ミュラー」との両者間では、完全に購入層が分離していて、一方の時計の販売が他方の時計の販売に全く影響を与えない関係になっている点がキーポイントです。

この点に着目すれば、原理原則に基づいて商標「フランク三浦」を無効とするよりも、今回の判決はより現実の場面に近いところまで判断がおよんだ内容の結論になっていると思います。この点で、より一般国民のもつ感覚に近い判断に落ち着いたと私は考えています。

(4)パロディ商標であっても制限はあります

今回の場合は、より実情に即した細かい判断までなされたため、パロディ商標「フランク三浦」は無効とはなりませんでした。

反面、今回の知財高裁の判決をもって、パロディ商標が許されるようになったと考えるのは、今の時点では行きすぎであると私は考えます。パロディ商標「フランク三浦」と本家本元の「フランク ミュラー」との両者間の購入層が分離していなければ、逆の結論になった可能性も十分あるからです。

ただ、今回の知財高裁の判断は、パロディ商標のあり方を問う興味深い一石になったことは確かだと思います。

今回の知財高裁のパロディ商標「フランク三浦」についてのコメントは、平成28年4月26日付けの朝日新聞の朝刊に掲載されました。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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